2025米国規制動向 #

2025米国規制動向 #

日付
February 20, 2025
タグ
Research
著者
Tomoyo Iwatsuka

免責事項:この投稿は一般的な情報提供のみを目的としています。また、投資判断の是非を評価するために利用されるべきものではありません。また、会計、法律、税務に関するアドバイスや投資推奨に依拠すべきものではありません。本投稿は執筆者の現在の意見を反映したものであり、Tanéまたはその関連会社を代表して作成されたものではなく、必ずしもTané、その関連会社、またはTanéに関連する個人の意見を反映するものではありません。ここに反映された意見は、更新通知されることなく変更されることがあります。

はじめに

2025年1月20日にトランプ政権が発足し、Crypto/Blockchain業界も大きな転換期に差し掛かっていると言われています。

今回はCrypto/Blockchain業界にとって重要と思われるアメリカの規制の動向についてお伝えしていきます。

就任〜2月中旬までの主な動き

2月中旬までの主だった動きとしては以下のとおりです。

  • 1月21日 米国証券取引委員会(Securities and Exchange Commission, SEC) による暗号資産タスクフォースの設立
  • 1月23日 SEC による SAB 121(米国会計基準)の廃止
    • 銀行等による暗号資産の預かりサービス実施時における会計基準を変更
  • 1月23日 「デジタル金融技術における米国のリーダーシップ強化」大統令への署名
    • バイデン政権による大統領令14067、及びこれに関連する財務省のデジタルアセットフレームワークの取り消し
    • CBDC(中央銀行デジタル通貨)の明確な禁止令の発動
  • 2月4日 上院及び下院の主要因会による「超党派の暗号資産委員会」の設立を発表

また、これまでの期間に重要なマイルストーンが発生しているわけではないですが、非常に重要な関連法案としてFinancial Innovation and Technology for the 21st Century Act(FIT21)があります。

この法案は一定の暗号資産に関し、証券規制の対象外とすることを明確にするための重要法案ですが、昨年下院を通過後、上院での検討状況、通過見込みなどが不明瞭な状況が続いていました。

今回の政権発足に伴い、この法案の審議もドライブされることが期待されています。先に触れた超党派の暗号資産委員会にとっても、本法案が重要な検討対象となる予定です。

トランプ政権における重要論点

ここまでの政権の動きから、特に注目すべきCrypto/Blockchainと関係のある論点は以下のとおりです。

  • 暗号資産の証券認定除外(FIT21法案)
  • 反CBDC(1/23大統領令、大統領令14067の取り消し)
  • デジタル資産に関する規制フレームワークの策定(ステーブルコイン法案、デジタルアセットフレームワーク法)

トークンの証券認定除外

暗号資産取引が米国の証券規制の対象となるべきか、ならざるべきかという議論は近年のCrypto界で最も注目されている論点の一つと言って過言ではないでしょう。現在、この点が不明瞭であるがためにSECと暗号資産取引事業者との間で訴訟に発展するといったことが現実に発生しています。

ここでは米国証券規制のフレームワークと、バイデン政権による規制方針、そして今回のトランプ政権による方針との違いを紹介していきます。

米国証券規制の基本的枠組み

米国の証券規制は、概論的には以下のような構造となっています。

対象となる証券
実質を重視し、名目に関わらず証券的な性質をもつ取引を広く規制対象とする。(日本法のような限定列挙方式ではない。)
対象となる企業等
法人に限定されず、広く投資契約の主体となる当事者を対象とする。パートナーシップを用いた集団投資なども含まれる。
主な規制内容
・登録義務 ・強制(情報)開示 ・営業規制(勧誘規制、財務規制、手数料規制など)

さらに証券を取り扱う事業者は、証券発行元や契約媒介者などを主に規制する市場法と、売買取引を行う業法の2系統の規制により取り締まられていますが、いずれも参入規制などは原則なく、登録をすれば原則誰でも市場参入可能となっている、自由競争を重視するスキームとなっていることが特徴です。(ただし銀行については銀行法上の規制が存在する場合があります)

証券についても、実質評価に重点を起き、外形上どういった条件の証券を発行するかと言った点には原則制限がなく、これも自由競争を重視したスキームと言えるかと思います。(ただし各種規制による情報開示義務や勧誘規制、資本準備金などの財務規制の義務は同時に果たす必要があります)

自由な競争を促進するための抽象的な「証券」の定義

アメリカ法の証券の定義は日本と異なり限定列挙方式ではなく、抽象的な定義が置かれているのみで、証券性が問題となった場合には裁判所でその成否を争うといった格好になっています。(法令内にも代表例の列挙はありますが、これは限定列挙ではなく例示であるとされています)

このためとある取引の証券性が問題となった場合には、ざっくりと以下のような方法で裁判所が判断することになります。

  • まず、法令内に例示のあるものは一旦証券であると推定されます。(この場合、あくまで「推定」なので反証が可能であり、証券性を否定する当事者が立証責任を負うこととなります)
  • 次に、例示がない場合にはHowey判例から生まれたHowey基準により判断されます。ここで評価される基準は①資金の出資、②共同事業、③収益の期待、④他者の努力(によりもっぱらリターンがもたらされること)の4つです。

ブロックチェーントークンの証券性

前段のお話で、アメリカでは証券か否かが個別具体的な検討の結果初めて確定する場合があることがおわかりいただけたかと思います。これをブロックチェーンのトークンエコノミーにあてはめると、ブロックチェーンのトークンが証券性をもつかどうかは一意には決まらず、個別具体的に判断されることになることがわかります。

そして現行法においてブロックチェーンのトークンは例示も定義もされていないことから、先の判定基準で判定をすることになります。その場合前者は該当がないので、Howey基準により評価することになるわけですが、

①資金の出資、②共同事業、③収益の期待、④他者の努力

多くのブロックチェーントークンの取引が上記4要件を満たすと判断されるおそれがあることにお気づきいただけるかと思います。

実際にこの論点に関係して、コインベースやリップルを相手取る投資家らによる訴訟が過去提起されており、コインベースについては現在も係争中となっています。(ただしトランプ政権で新たな制度の検討がまさに実施されることとなり、直近では期日の延期などが行われています)

また、証券認定の基準が曖昧であることから規制対象となることを恐れたブロックチェーンの一部のプロジェクトでは、建前上アメリカからのアクセスを禁止する(規約でそのように明言したり、IPブロックなどを実施する等)措置を講じるといったようなことも現実に行われています。

今後規制の対象となる基準が明確になることで、こういった状況が解消される期待もされています。

バイデン政権による大統領令14067

更に先のバイデン政権では、2022年3月9日に消費者と投資家保護、詐欺対策を重点し、事業者への規制強化の方向性を示す内容を含む大統領令14067が署名されました。

この大統領令自体が直接的に新たな規制を生むものではありませんでしたが、方針としての影響力は強く、バイデン政権下のSECは実際に厳格な規則執行や後述するSAB121の発行など、業界の成長を抑止しする政策が取られていたと言われています。

今年になってトランプ政権へ政権交代を果たしたことは、業界の成長抑止から成長促進への大きな転換となることが期待されています。

FIT21(Amendment)が何を行おうとしているか

ここで重要法案であるFinancial Innovation and Technology for the 21st Century Act(FIT21)の概略に触れていきたいと思います。

この法案はいわゆる現行法に対するAmendmentで、主に以下のことを目的とした法案となっています。

  • 証券法の定義を追加、修正を実施
  • 関連する商品売買法(先物商品等に関する規制)、証券取引法などの各法案に対する調整を実施
  • デジタルアセットやブロックチェーンシステムについて定義し、一定の場合に証券法の対象外(代わりに商品先物取引委員会の規制対象となる場合あり)となる修正を実施
  • SCE(証券取引委員会)とCFTC(商品先物取引委員会)の共同作業によるルールメイキングの義務付け

すでにFIT21がCrypto業界にとって非常に意義の高い法案であることがご想像いただけているかと思います。本法案では、従来の証券法の枠組みでは証券規制の対象となってしまうおそれが残存するデジタルアセットについて、一定の要件(ブロックチェーン)をクリアしたものは証券法の適用を除外し、商品売買として取り扱うことを提案しています。

分散化システム

また、本法案の定義の中で特に注目したいのは、規制適用除外の重要な要件としてブロックチェーンシステムであることに加えて「分散化」が十分になされていることを上げている点です。これにより、どの程度の分散化が行われていれば法規制の対象にならないのかを明確に判断することが可能になることが期待されます。

現行法案で提案されている分散化の主な指標は以下のようなものです。

  • 過去12ヶ月において誰も
    • システム等に対する一方的な権限を有していなかったこと
    • 特定人物をブロックチェーン上の活動(トークンの送受信はもちろんのこと、DAOコミュニティへの参加やノードバリデーターとしての参加も含む)一方的に排除するような権限を有していなかったこと
    • 対象資産に対して20%以上の所有権を持つものがいなかったこと
    • 20%以上のガバナンス支配権を持つものがいなかったこと
  • 過去3ヶ月において、脆弱性への対処、分散コミュニティによる決定に基づく場合を除いてシステムに重要な変更を加えたものがいないこと など

これらの考え方は、Tanéも支持するブロックチェーンエコシステムにおけるDecentralized(非中央集権)やPermissionless(誰の許可も必要とはせず、誰でも参加可能)についてのものであり、その形に一定の具体的な定義が与えられることが期待されます。

本法案はあくまでアメリカの具体的な実定法を修正するための1法案ではありますが、ここで決まる定義や基準が他国のブロックチェーン関連規制に与える影響は小さくないでしょう。

FIT21は昨年初夏に下院を通過して依頼、上院での審議状況が明らかではありませんでしたが、超党派の暗号資産委員会で重要議題とされることが決まっており、これからのスピーディな進展に期待したいところです。

💡

FIT21については現時点であくまで法案の状態であるため、今後の上院審議過程を通じて内容が変更される可能性があります。

反CBDC方針

少し話題を変えて、ブロックチェーン業界対応と同様にバイデン政権との違いが著しいCBDCについても簡単に触れておきたいと思います。

先に紹介した通り、トランプ大統領は大統領令「デジタル金融技術における米国のリーダーシップ強化」においてCBDC検討推進を指示していたバイデン大統領の大統領令14067を取り消す署名を行い、CBDCの検討が行われることを禁止するというドラスティックな転換を行っています。また、様々なメディアへの露出機会においても、CBDCへの反対姿勢を明確に打ち出しています。

CBDCとはなにか

CBDC(中央銀行デジタル通貨)とは何かについてまずはおさらいをしておきたいと思います。CBDCは以下の特徴を備えた通貨といわれています。(参考に、同じドル建てデジタル資産のステーブルコインとの対比もしています)

CBDC
ステーブルコイン
デジタル化されている決済手段
デジタル化された暗号資産
ドルや円など法定通貨建てで発行
ドルや円、その他金などのコモディ価格と連動する設計がされている(ロジックは様々)
中央銀行の債務として発行
中央銀行でなくても発行可能

また、国家がCBDCを導入する一般的なPros Consは以下のようなものだと言われています。

Pros
Cons
・偽札対策などのセキュリティ向上 ・通貨、貨幣発行コストの削減 ・流通インフラコストの削減
・中央銀行による国民財産監視力が強まる ・Cryptoなどの非中央集権通貨との競争に中央銀行が参入することとなり、業界発展を阻害するおそれ ・自国に他国のCBDCが普及した場合、自国民に対して他国による金融制裁が容易に可能となる

これについて、トランプ大統領は国民に対する財産監視が強まりすぎること、金融不安を引き起こすおそれなどを主な反対理由として上げています。

なお、すでに世界では11カ国がCBDCを発行し始めており、発行国はバハマや東カリブ通貨同盟加盟の8カ国・地域、ナイジェリア、ジャマイカなどのいわゆる途上国が中心です。

CBDCに関する方針については明確な反対を表明し、検討禁止を宣言している以外には直近で大きな動きはないものの、ブロックチェーンを中心とした規制緩和と自由化の方針や、アメリカのドルがすでにかなり安定した金融環境をもつ世界の基軸通貨であるという状況を考えると、一定の整合性のある政治方針となっているようにも思われます。

トランプ政権のステーブルコイン政策

対比として、ステーブルコインについても軽く触れておきたいと思います。ステーブルコインは暗号資産の一つですが、法定通貨や金などのコモディティ価格と(多くは1:1で)でペグ(固定レート化)されるよう設計されたトークンをいいます。他の暗号資産よりも価格が安定していることからステーブルコインと呼ばれています。(ただし、ペグが外れて暴落するようなケースがなくはありません)

ドルが法定通貨において絶対的な地位を誇る基軸通貨となっていることはご存知のとおりですが、暗号資産/ステーブルコイン界においてもドルに連動するステーブルコインの流通量はすでに圧倒的なものとなっています。

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大手暗号資産マーケットメディアのCoin Market CapによるFiat(法定通貨)Stable Coinランキング2025/2/19時点。上位はUSDペグのCoinで占められており、MarketCapベースでも圧倒的シェアを誇る。(https://coinmarketcap.com/view/fiat-stablecoin/)

ステーブルコインの取り扱いに関しては、先のFIT21法案において以下のような対応が検討されています。

  • ステーブルコインの定義の明確化(他のデジタルアセットと区別)
  • 許可されたステーブルコインを用いた決済(PERMITTED PAYMENT STABLECOIN)について、一定の規制除外を実施

また、冒頭で触れた「超党派の暗号資産委員会」の発表カンファレンス(2025年2月4日)においてもステーブルコイン法案の作成に重点を置くことが言及されています。

以上の状況から、中央集権的なCBDC導入による政府の市場介入を避け、政府はあくまで制度設計に集中し、実際の競争は民間の自由競争に任せるといった方針が明確になってきています。

その他の動きについて

その他ブロックチェーンに関係する動きとしては、政権発足直後に行われたSAB121が特筆すべきものでしょう。これはバイデン政権下に発行された米国会計基準であり、暗号資産の預かり(カストディ)事業を行う場合に、対象となる預かり資産の支配状況に関係なく、預かり残高をすべてBS上評価する必要があり、その結果財務規制(預かり財産に応じた資本金等の)対応等のためのコストが跳ね上がってしまうため、特に銀行等が暗号資産のカストディビジネスに参入する障壁となっていました。

今回SAB121が廃止され、新たにSAB122が発行されました。これにより、企業は暗号資産だけを特別扱いする必要がなくなり、各企業で契約や資産の状況に応じた実質的な会計基準を選択できるようになりました。

ここでも先のバイデン政権は消費者や投資家の保護を厚くし、事業者を規制する方針であったところ、トランプ政権の規制緩和の方針がよく現れていると思います。

今後の見通しについて

政権発足後慌ただしい動きの印象のあるトランプ政権ですが、ブロックチェーン関係については会計基準1件の廃止、委員会の発足、大統領令1件の発行と本格的な規制緩和の動きはまだまだこれからといった印象です。

ただ、今後については以下のマイルストーンがすでに示されていますので、また継続的にレポートさせていただけたらと考えています。

  • SECの暗号資産タスクフォースによるデジタル資産フレームワーク規制および立法案に関する意見提出👉️タスクフォース設立から180日以内(今年の夏頃相当)
  • ステーブルコイン法案と連邦法によるデジタルアセットフレームワーク法案、FIT21法案の上院通過👉️暗号資産委員会発足から100日以内目標(今年の4月頃に相当)

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参考資料

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SEC.gov | Staff Accounting Bulletin No. 122SEC.gov | Staff Accounting Bulletin No. 122

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