CosmosからInterchain

日付
October 10, 2023
タグ
Research
著者
Takeshi Ohishi

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まとめ

  • Cosmosは異なるブロックチェーンが相互運用性(インターオペラビリティ)を持ったスケーラブルなブロックチェーンエコシステムであり、EthereumやSolanaなどの仕組みとは考え方や思想が違います。
  • Cosmosの最大の特徴であるIBCは相互運用性を実現する上で重要な役割を果たします。
  • 今後の課題として、より開発者体験が進化したIBC技術の実装とエコシステム自体の発展が必要であると考えられます。

Cosmosとは

有名なブロックチェーンに関するポッドキャストであるBanklessのエピソードで「The Blochain Trillemma」という回があり、その中で代表的な例としてEthereum、SolanaとともにCosmosが詳細されていました。分散性(Decentralized)とスケーラビリティ(Scalable)を実現しているCosmosは、どのようなプロジェクトなのでしょうか。

クリプトの文脈で「Cosmos」とは、様々なブロックチェーンの相互運用性を実現するためのプロジェクト全体、と考えられますが、主にいくつかの主要コンポーネントについて分けて説明します。

  • Cosmosネットワーク: Cosmos Hubを含む多くの独立したブロックチェーンから構成される全体を指します。
  • Cosmos SDK: 開発者が独自のブロックチェーンアプリケーションやプラットフォームを効率的に構築できるツールキットとして機能します。それぞれの主な機能はモジュールに和分かれていて、開発者は既存のモジュールを利用するか、新しいモジュールを作成して特定の機能やサービスを提供できます。
  • Cosmos Hub: Cosmos SDKを利用して作られた最初のブロックチェーン。Cosmos HubのネイティブトークンはATOMであり、2023年9月現在で$2Bの時価総額があります。Cosmos Hubのセキュリティを利用したInterchain Securityの仕組みが導入されています。

以下特に明記しない場合、Cosmos = Cosmosネットワークとして説明していきます。

Cosmosの特徴は以下の通りです。

  1. インターブロックチェーンコミュニケーション(IBC): Cosmosは、異なるブロックチェーンが安全かつ効果的に通信できるよう設計されたインターブロックチェーンコミュニケーションプロトコルを特徴としています。
  2. CometBFT: Cosmosは、高いスケーラビリティと短いブロック時間(即時ファイナリティ)を提供するTendermintコンセンサスを実装したCometBFTを利用しています。以前はTendermintという名前でしたが、商標の関係上Cometに名前が変わっています。
  3. ハブとゾーンの概念: Cosmosは、異なるブロックチェーン(ゾーン)が接続されている複数のハブから成り立っています。これにより、異なるゾーンが効率的に相互作用できます。
  4. スケーラビリティ: Cosmosでは、チェーン上で稼働するアプリケーションに必要とされる要件やユースケース毎に異なるブロックチェーンが存在することを想定していて、それぞれのブロックチェーンは独立して運営されるため、ネットワーク全体としてのスケーラビリティが向上します。
  5. ソブリンブロックチェーン: Cosmosでは、各ブロックチェーン(またはゾーン)は独自のコンセンサスアルゴリズムとガバナンスメカニズムを持つことができます。各ブロックチェーンで独自のトークンを発行することも出来ますし、コミュニティによる議論形成を通して他のチェーンと独立した形で技術スタックの大きな変更を行うことが可能となっています。

Cosmosの沿革

現在のCosmosに至るまでの歴史を簡単に振り返っていきましょう。

  • 2014年 Tendermintの開発
    • Jae Kwon氏によりTendermintが発明されました。
    • Tendermintとは、古典的なByzantine Fault Tolerantコンセンサスアルゴリズムにスラッシングの実装を組み込んだもの。
  • 2016年 Cosmosのホワイトペーパーを発表
    • このホワイトペーパーの中で、「Internet of Blockchains」というコンセプト、Tendermintコンセンサスエンジン、ABCIアプリケーションインターフェース、そしてIBCが発表されました。
  • 2017年 ICFの創設とICO
    • Cosmosの開発に携わるInterchain Foundation(ICF)が創設されました
    • 春にInitial Coin Offering(ICO)を実施、$17mを調達。
  • 2018年 Cosmos SDK開発とCosmos Hubのテストネットの実施
  • 2019年 Cosmos Hubローンチ
  • 2020年 ICFからInformal Systemsがスピンアウト
  • 2021年 StargateのリリースによりIBC機能の有効化
  • 2022年 ATOM 2.0ホワイトペーパー発表
  • 2023年 Interchain Securityの最初のバージョンであるReplicated SecurityがNeutronで有効化

IBCとは

Cosmosの目指すビジョンである「Internet of Blockchains」を実現するために最も重要な技術、IBCについて詳しく解説していきたいと思います。

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IBCとは、Inter-Blockchain Communication (Protocol)の略で、2つの異なるブロックチェーンが互いに通信することを可能にする相互運用性(インターオペラビリティ)プロトコルです。単なるトークン転送のブリッジだけを行うものではなく、任意の汎用的なメッセージ、つまりあらゆる形式のデータを転送できるプロトコルとなっています。

異なるブロックチェーンはそれぞれサイロのように存在していて、その相互作用はデフォルトでは限定的にならざるを得ません。ブロックチェーン間でトークンの移動などを行いたい場合も、サードパーティであるブリッジなどに信頼を置いて処理を行う必要があります。一方、IBCを利用することで、十分に早いファイナリティを持つチェーン同士であれば、信頼するサードパーティを必要とせず、メッセージをやり取りできるという、トラストの最小化を実現することが出来ます。IBCはブロックチェーン間の相互運用性を大幅に向上するための仕組みと言えます。IBCに対応したブロックチェーンを開発者がゼロから開発することなく簡単に立ち上げるために、Cosmos SDKが用意されています。

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出典:What is IBC?

IBCの仕組みはトランスポート層とアプリケーション層に分けて理解することが重要です。トランスポート層では、転送されるIBCのメッセージ(データパケット)を、ライトクライアントによって素早く安価に検証することによって、中間にいる第三者を必要とせずに安全にデータを交換することが可能となっています。このデータ転送において、モジュールごとにチャンネルが作成され、リレイヤーがメッセージを送る役割を担います。アプリケーション層では、様々なユースケース毎にアプリケーションが規定されています。わかり易い例でいうとトークン転送のためのアプリケーションとして、ICS20という規格があり、データパケットがどのように構成されるべきか、などが規定されています。最近実際に実装されて運用され始めているInterchain SecurityもIBCを元に作られています。

IBCの課題

IBCがリリースされて2年の間に100以上のCosmosチェーンがリリースされ、IBCを使って巨額の富がそのチェーン間でやりとりされていますが、Cosmos SDKで作られたブロックチェーン以外にはまだそこまで展開できていない現状があります。Cosmosが掲げるビジョンを実現するためには、より多くのエコシステムとCosmosエコシステムがつながって、IBCを利用した開発が進んでいくことを目指す必要があります。

以下にIBCの現状の課題を挙げたいと思います。

Cosmos外へのIBC展開

相互運用性を実現するIBC自体は、Cosmos SDKを使わなくてもABCI(Application-Blockchain Interface)を利用することで、実装可能です。つまり、いわゆるCosmosチェーン以外もIBCで接続することが論理的には可能となっています。しかし、現在多くのユーザに使われているEthereumやArbitrumなどのRollupで採用されているEVMを使ったブロックチェーンとつなげるには、ガス代の問題が指摘されています。Tanéの投資先でもあるPolymerは、ゼロ知識証明技術を利用してあらゆるブロックチェーンをIBCをつなげるというビジョンを掲げて、この課題に取り組んでいて、OpenIBCという団体を作ってさらなるIBC展開を主導しています。

IBCを使う開発者向けのツールやドキュメントのサポート

Composabilityを武器にするEthereumエコシステムに比べて、Cosmosの開発者向けツールやドキュメントサポートがまだまだ未成熟です。特に、IBCを便利に使うための仕組みであるInterchain Queries (ICQ)やInterchain Accounts(ICA)はまだ出来たばかりで改善が必要だったり、テストフレームワークがまだまだ成熟しきっていません。Cosmosエコシステムのソフトウェアに深く関わっているStrangeloveなどがこの領域に特に力を入れて取り組んでいます。

マーケティング全般の改善

Cosmosは歴史的経緯や主体を持たないという特性から、そのエコシステムの発展自体にマーケティングの側面からコミットしている存在がないこともあり、優秀な開発者、優れた技術とコンセプトはあるもののユーザ、開発者面でEthereumエコシステムに負けているということがあると考えています。この課題についてはInterchain Foundationを中心に、エコシステム全体の参加者が取り組んでいくべきです。

Cosmosの今後

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あらゆるエコシステムの拡大には、より多くのユーザに使われるアプリケーションの存在が必要です。そのためにそのアプリケーションを作り出す開発者、そのエコシステムの拡充は不可欠です。Cosmos開発者エコシステムの大きさは、Ethereum/EVM/Solidityの開発者エコシステムに比べると、まだまだ小さいです。Electric Capitalによる開発者レポートによると、EthereumとCosmosの開発者人口は、2022年時点で約3倍の規模の差があったとされています。昨今のRollupの盛り上がりを考えると、更にEthereum経済圏での開発者は増えているでしょう。

Cosmosが目指すビジョンである「Internet of Blockchains」自体はCosmos外のチェーンを繋いでいくことも含んでいるはずです。そのためにも開発者体験を意識したIBCの継続的な改善、そしてCosmos SDKを利用した新たなユースケースを実現するカスタマイズされたブロックチェーンとその上のアプリケーションの盛り上がり、そしてすでに盛り上がっているチェーンとの相互運用性の実現が今後の課題であると考えます。そのためにも、開発者エコシステムに対するより一層のサポートが必要になっていると言えるでしょう。

参考記事

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