2024年

日付
January 8, 2024
タグ
Research
著者
Ikuma Mutobe

年初に自分の考えを書いておくことで、年末に見返すことができます。2024年年始に考えたことを書いていきます。

金融緩和

金融引き締めから金融緩和への転換がいつ起こるのかが一番の注目事項でしょう。

金利が2023年10月から年末にかけて下落し、株式、暗号資産の価格が上昇しました。

2024年から2026年にかけて金利が下落していくと見ている人が多いようです。金利の下落とともに資本市場、暗号資産の価格が上昇していくでしょう。

選挙

今年は選挙が多い年です。注目はアメリカ大統領選でしょう。トランプが再選するかどうかに注目が集まっています。誰が選ばれるかでその後の金融・経済政策も大きく影響を受けるので要注目です。

  • 1月台湾総統選
  • 2月インドネシア大統領選
  • 3月ロシア大統領選
  • 4月韓国総選挙
  • 4-5月インド総選挙
  • 6月メキシコ大統領選
  • 11月アメリカ大統領選

ETF

ETFの承認は、BitcoinやEthereumを直接買えない機関投資家や金融機関、個人のお金が流れていくきっかけになります。特に、暗号資産のボラティリティを自身のポートフォリオに取り込むことで理論上のリターンを上昇させられるため、一定割合の暗号資産をETFを通じて取り込むので、資金流入が増えるでしょう。

しかし、ETFを通じた暗号資産の保有の増加は、Bitcoinが目指した「金融の自由化」や「セルフ・カストディ」といったものを全く気にしない人たちの保有が増えることを意味します。この点は理解しておきたいです。

Ethereum

Ethereumは、2023年を通じてモジュラー化をすすめ、Rollup中心のエコシステムに変貌を遂げつつあります。

2023年後半にCelestiaがローンチし、Data Availabilityが一躍注目を集めました。Celestiaを含めたAvail, Eigen DA、NearなどのプレイヤーにEthereumのDAとしての役割を奪われつつあります。

DAとしての収益を失ったETHの価値はどうなるか。

私は、EthereumはCryptoにおけるBitcoinに次ぐ基軸通貨だと考えています。分散化されていて、検閲耐性があり、信頼できる中立性を確立しています。だからこそ、イノベーションも生まれる。これが非常に価値のあることなんです。

2024年はEthereumのHardforkも予定されています。DencunとPrague-Electraです。

Dencunは2024年1Qでの実施が予定されています。目玉はEIP-4844(Proto-Danksharding)です。Data Availabilityのコストを削減します。EIP-4844のリリース後でもAlt DAの方がコスト面で有利だとみています。

Prague-Electraは年後半に実施の予定です。Verkle Tree(実装されるかは未定)、BLS署名検証などの新しい機能の追加が予定されています。Verkle Treeが実装されることになる場合は、StatelessなEthereumへの重要なステップとなるので、楽しみです。

Rollup

2024年はRollupの増加と選別が起こります。Rollupが雨の後の筍のように増えました。2024年もEthereum以外のL1からRollupへの移行、dAppsの独自チェーンへの移行、Rollup as a Serviceからの積極的な営業などにより増えていくでしょう。

しかし、差別化できているRollupは少ないため、競争は激しいです。

ファンダメンタルな価値を作れていないことが多い。そのため、インセンティブ競争になってしまいます。最終的には、機能特化したRollup、エコシステムを有するRollupなどが残っていくと考えています。

dAppsの独自チェーンへの移行は、ある程度の事業規模がないところは厳しいでしょう。(dYdXはEthereumのL2で成功してからの独自チェーンへの移行)

ZKとFHE

2023年11月のイスタンブールで開催されたProgcryptoで、PRIVACY + SCALING EXPLORATIONSの方が、クレジットスコアを名前を明かさずに取得する方法をZK、FHEの技術をどのように使うかを解説していました。わかりやすかったです。

2024年は、ZK coprocessors、FHEなどの強力な暗号技術の活用例が増えていくでしょう。

Tanéの投資先のFhenixは、パブリック・ブロックチェーンのend-to-endの暗号化に取り組んでいます。これによって、オンチェーンデータをプライベートに扱うことが可能になり、バリデータでさえデータにアクセスできないため、MEVの問題も減少します。

Intentがより広がる年

Intentベースのサービスを触ってみるとかなり便利です。

CoW Swap、1inch、Uniswap X、IntentベースのBridgeなど、現状はオフチェーンで実装しています。Intentのおかげでスリッページ、MEVなどを防ぐこともできるし、より複雑なことも表現できます。今年はIntentを利用したサービスがもっと出てくるでしょう。

インテントを前提としたアーキテクチャの開発をAnoma、SUAVE、Essentialなどが取り組んでいます。どれもリリースされるまでには相応の時間がかかる見込みです。昨年11月にイスタンブールでAnomaのCEOと話した時には、メインネットは2024年末には出るとのことでした。楽しみに待ちましょう。

インテントについて知りたい方は下記をご覧ください。

Intent(インテント)の現状と可能性

ステーキングの進化

BitcoinのPoWにはじまり、CosmosがPoSを初めて採用し、LidoのLiquid Staking、EigenLayerのRestakingとステーキングは進化してきました。次の進化として注目しているのは、Long Term Stakingです。

伝統的なファイナンスの世界では、例えば、債券は期間が長ければ長いほど金利が高くなります。債券発行者がより長い期間の資金を借りる場合は、より高い金利を払うことになるからです。期間ごとの金利をプロットしたイールドカーブを描いて、投資検討をすることもよく行われています。

しかし、ステーキングを見てみると期間が異なっても、ステーキングの金利は同様です。これを長期間ステーキングする人には高い金利を与えるようにすることで、長期でプロトコルにコミットするインセンティブを作り出すことができます。

これは、ネットワークを安定的に運用していく上で重要です。バリデータが長期でコミットすることで高い利回りを得られ、その代わりにプロトコルは長期で安定してバリデータとして参加してもらうことができます。

ガス代のデリバティブ

ガス代のボラティリティは高いです。トークンをスワップしようと思ったら高い、NFTのミントだけど、高い。ガス代の変動が抑えられたり、あらかじめ決まった値段に固定できたら良いですよね?

ガス代は石油などのコモディティに似ています。コモディティ市場においてデリバティブが発展したように、ブロックスペースも近い形で発展する可能性があります。例えば、将来のブロックスペースをあらかじめ予約することでも実装可能です。。(これはATOM2.0でNFTの形で予約する仕組みが提案されていました。現時点では未実装)

将来のブロックスペースの価格の算出、ブロックスペースをもつプロポーザー(バリデータ)の参加のインセンティブなど考慮する事項は多いです。

このテーマに挑戦している起業家や開発者は気軽に連絡ください。

DAOガバナンスの進化

TanéでコミットしているDAOガバナンス。

Cryptoのプロトコルにとっては、米国の規制における証券認定を回避するために「分散化」が至上命題となっています。ネットワーク運用、組織運営、デプロイなどあらゆる点での分散化が求められています。

DAOのトレジャリーの総額は$30Bを超えてきました。(deepDAOのデータ)いわゆるDAOとして組織運営が行われているプロジェクトは、プロダクトとしてPMF後のものが多くなっています。

各プロジェクトのDAOのトレジャリーのサイズは最大でOptimismの$7Bと、$10Bに迫る規模のものも出てきました。

2024年は、各専門領域でプロフェッショナルなサービスを提供するService Providerや代議士的な動きをすることによってDAOの運営に貢献していくDelegateの存在がよりクローズアップされるでしょう。

また、Grantsプログラムの改善、ファウンデーションの役割の再定義、悪者 (capture、spyingなど)などのトピックも注目しています。

アイディアはCosmos、その成果は・・

CosmosHubは運営主体のコミットが曖昧でイマイチ成長しきれていません。大口のトークンホルダー同士の仲が悪く、それも足を引っ張っている一因でしょう。2024年はCelestia、dYdX、SeiなどのCosmos SDKを使用したプロジェクトにその主導的なポジションを譲ることになるかもしれません。

Cosmos Hubの存在価値はセキュリティの提供です。PoSのため、セキュリティは時価総額の大きさが重要です。Celestiaなどにその存在を奪われる展開もありえるかもしれません。

これまでにInterchain Security、ATOM2.0などアイディア自体は素晴らしいものを多く生み出してきました。しかし、それが実践するのはEthereumなどの他エコシステムというのは今後も続きそうです。2024年はProof of LiquidityがCosmosエコシステムで生まれ、他で花開くかもしれません。

IBCは素晴らしい技術です。最近、Xのアカウントも作成され、ようやくマーケティングにも力を入れ始めました。Cosmos Hubが弱体化していくことで危惧されるのは、Cosmos Hubが資金提供している技術スタックの開発が滞ることです。

Web3 Socialはノイズ

Web3 Socialは、投資家・起業家側からの期待をすごく感じます。しかし、Airdrop狙いの盛り上がりを除けば、ユーザーとして本当に熱狂しているWeb3 Socialのサービスはまだないでしょう。

「ソーシャル・グラフを自分でコントロールできる」ということは、セルフ・カストディという意味では理解できます。しかし、金銭的な価値のある資産と異なり、自分のソーシャル・グラフをコントロールできることに価値を見出すユーザーはより少ないです。

利用者にトークンのAirdropを期待させることで、Airdrop目当てのユーザーやアクションが増加します。これはノイズです。このノイズがPMFを見つけることを難しくしているでしょう。投稿や基本的なアクションにインセンティブをつけるのは悪手ですらあります。

Airdropがなくても、毎日使うWeb3 Socialのサービスはありますか。

トークンをもらって、すぐ売却して、ユーザーが離れていってしまう。Airdrop期待で下駄をはかされている数値は間違った示唆を与えます。起業家はそれを理解すべきだし、確信犯的にそれを利用する起業家を投資家は見抜くべきです。

規制の明確化

2024年は、米国の規制が明確化していくでしょう。どの程度まで変化するかにもよりますが、変化の度合いによってはまたスタートアップ、投資家ともに大きな影響を受ける可能性があります。

ドバイでは2023年にCrypto関連の規制の運用が本格的にはじまりました。ライセンス取得会社も徐々に増えているようです。2024年はドバイ、アブダビでのトークン発行の例など、実際の運用例が増えていくことが望まれます。