どうもTanéの六人部です。2025年もよろしくお願い致します。
年始の恒例になりました新年の見通しシリーズ。昨年は年初に 2024年 2024年 を書きました。当たっている箇所もあれば、全く外れている箇所もありました。文章で残しておくことで都合の良い記憶の書き換えも起こらないので、振り返りにおすすめです。2025年末にどういう成果を出しているのか、どういう気分でいるのかを想像しながら、2025年の見通しを書き残しておきます。
今回はTanéの六人部、大石、コントリビューターの木村の見通しを書いております。
本格的なAI時代の到来
六人部生馬
AIのあらゆる分野への浸透
AIはクリプトに限らず、幅広い分野に一番インパクトがあると考えている分野です。
この1-2年で、多くの人がChatGPTなどのAIを毎日利用していると思います。リサーチ、文章・画像・動画などのコンテンツ作成、議論、趣味、勉強などあらゆる場面で利用されています。進化のスピードが専門家の予想よりも早く、私たちが想像している以上にできることが増えている印象です。
AIの活用は過去数年で多くの場面で進んでいると思いますが、私が今年一番衝撃を受けたのはその「自律性」でした。
AI Agent初のミリオネアとして注目を浴びたTruth Terminalは、自身でもともとの開発者から独立し、a16zのマーク・アンドリーセンから5万ドル分のBTCを借りてしまいました。その後、他社が発行したトークンを自身のmeme coinとして、時価総額$1B超のAI Agent tokenが誕生しました。($GOAT)
SaaS, AIの領域で語られるAI Agentもこれまでのデジタル化から一段と進んだものを実現するのではないかと言われています。
AIが自ら思考し、意思決定して行動をとることができるのが普通になりつつあります。課題はまだまだ多いですが、すでに人間が自ら業務を行うよりAIが行った方が質、量、スピードなどの点で優れている点が多いと実感するようになりました。
2025年は私及び業務の大半をAIに任せていこうと考えています。同じようなことを考えている方は気軽に連絡ください。ぜひアイディアや取り組みを共有しましょう。
AI x Crypto
AIとクリプトも2023年中盤から盛り上がりを見せていましたが、一部のユースケースを除き、流行にすぎないと思っていた人も多かったように思います。AI自体は、ChatGPTの登場からどんどん進化し、ついには思考もできるようになってきたと言われています。AIの専門家にヒアリングをすると2023年末時点ではまだAIには思考はできないと思われていたそうです。
この進化に合わせてAIとクリプトを組み合わせたプロジェクトも本質的な課題解決を目指したものや社会インパクトのあるものが増えてきました。本稿ではAI Agentのトークン価格の上昇、ボットの延長線という理解を超えた捉え方を共有したいと思います。
AIとクリプトはなぜ結びつくのか
基本的には、AIの技術の機能向上や課題解決のためにクリプトやブロックチェーンが必要ではありません。しかし、クリプトによってAIの分散化、検証手段、検閲体制、支払い手段などが可能となり、新しいユースケースが出てくると考えています。
AIの分散化
従来のAIは巨大資本をもつ大手企業のサーバーやクラウド環境で稼働し、中心化された管理下にあります。しかし、ブロックチェーンを活用することで、AIエージェントが特定の管理者なしに動き、一定のルールに基づいてトークンのやり取りを行えるようになります。これにより、AIがより高い自律性を持ち、従来の中央集権的な管理モデルとは異なる動作形態を実現できます。
データ管理、主権の確保、透明性向上
AIが機械学習に用いるデータが増えるほど、「誰が」「どのように」そのデータを提供し、利用するのかが課題になります。ブロックチェーン技術を活用すれば、データの真正性や所有権のトレーサビリティを担保しやすくなります。さらに、各個人が自分のデータをコントロールし、必要に応じて対価を得られる仕組みを整えることも期待できます。AIのブラックボックスになりがちな部分をブロックチェーンの得意な検証可能な方法で誰もがアクセスできるようなオープンな環境が実現されます。また、AI Agentが増加していく中で人間性の証明(Proof Of Personhood)がより重要になります。
エージェント時代とスマートコントラクトの相性の良さ
AI AgentがクリプトでもSaaSやAIの領域でも盛り上がっています。AI Agentの肝は自律性にあるため、スマートコントラクトとの相性はとても良いです。例えば、AI Agentが自律的に活動し、タスク完了の報酬をもらう際には暗号通貨のインフラの方が適しています。(現在の法定通貨のインフラである銀行・証券会社等はAI Agentに口座を開設させることは難しい可能性があります。)
Agentic Webの到来
Agentic Webとは、クリプトのインフラストラクチャー上でAI Agentが自律的に経済活動を行うようになることを指して使われている言葉です。エージェントが自分のWalletを持ち、自律的に取引やタスクを実行し、人やエージェントとステーブルコインなどのトークンのやりとりを行うようになります。
出典: Coinbase Demystifying the クリプト x AI Stack
クリプト x AIは上記の図にあるように幅広い分野でプロジェクトが登場しています。Coinbaseのこの分類に従うと下記の4種類に分かれています。
- コンピューティング
- AI 開発者に潜在的なGPUを分散的に集め、提供することに重点を置いたネットワーク
- 例:汎用コンピューティング、AI/MLコンピューティング、エッジコンピューティング
- データ
- AI データの分散的なアクセス、調整、検証可能性を可能にするネットワーク
- 例:マーケットプレイス、ユーザー所有/プライベートデータ、データインテリジェンス、ストレージ、オラクル
- ミドルウェア
- AI モデル/エージェントの開発、展開、ホスティングを可能にするネットワーク/プラットフォーム
- 例:オープンなLLM、オンチェーンモデル作成、トレーニング、プライバシー、エージェントネットワーク
- アプリケーション
- クリプト、ブロックチェーンとAIを活用するユーザー向け製品
- 例:AI Agentを活用したWallet、AI Agentベースのゲーム、AIエージェント開発・共有・収益化のプラットフォーム
米国の規制緩和
2024年11月5日の米国大統領選でトランプ氏の勝利、プロ・クリプト(クリプト賛成派)の議員が多数当選し、議会の多数派を占めることになりました。それを受けて、2025年のトランプ氏の大統領就任後は規制改革法案をはじめとする一連の規制緩和が見込まれ、クリプトが大幅に盛り上がっていくと見ています。
規制改革法案の通過、財務長官、SECの新委員長、副大統領、AI/クリプト担当などの人材は全てクリプト賛成派で固められる見通しです。現在係争中の訴訟案件で、Coinbaseをはじめとする取引所、DeFiプロトコル、Rippleに対する訴訟案件が2025年どのように扱われるかは要注目です。
また、米国ではBTCを戦略準備金(Strategic Reserve)として保有するアイディアが現実味を帯びてきています。米国政府が保有するようになると他国も保有せざるを得ない流れに傾くとBTCの価格にとっては上昇要因となるでしょう。政府が多く保有することの是非はまた別で議論したいと思います。
DePIN - 分散したほうが低コスト、高品質
DePINはビジネスとして成り立つ可能性が高いことが明らかになってきました。というのも一定量のハードウェアを配布し、ネットワークを構築することに成功すれば、マネタイズが比較的容易だからです。
例えば、DePINの代表的なプロジェクトのHeliumは北米、欧州でサービス展開を行い、既存の通信キャリアにも特定地域で通信ネットワークを販売しているそうです。分散型Google Mapと呼ばれるHivemapperは、ドライブレコーダーを販売し、地図データを提供してくれたユーザーにトークンを報酬として支払っています。彼らはGoogle Mapより更新頻度の高い地図データを地図データの販売会社にすでに販売しているそうです。
ステーブルコインがある日常
多くの人がステーブルコインのより一層の普及を今年の注目ポイントとして掲げているので、詳細はそちらをご覧ください。私からは個人としてよりクリプトが日常生活で使いやすくなる上でステーブルコインによる価値のやりとりが普及していくことは非常に重要だと考えています。
実際、この2-3年で暗号通貨で引き落としができるデビットカードは大きく成長していますクリプトに慣れ親しんだ、資産の大半が暗号通貨の人にとってはとてもありがたいサービスです。通常の法定通貨を使うためにはオンランプ・オフランプの手数料、取引所や銀行への送金と手数料も時間もかかります。オンチェーンで低コストかつ一瞬で資金を移動できて、そこから引き落としができる世界がくるのは時間の問題でしょう。
世界でも日本でも大企業がステーブルコインに注目しているという話をよく聞きます。しかし、大企業が優れたUXを作ることができるのでしょうか。また「イノベーションのジレンマ」ともいえる既存の事業やしがらみがあることでユーザーにとってベストな意思決定ができるかも疑問です。スタートアップが優れたサービスを世の中に普及させることを期待しています。
そもそも、Walletが簡単に使えるようになれば、そのようなサービスも不要かもしれません。例えば、あなたはECや物理的な店舗を運営しています。決済手段としてクレジットカードや他の手段をいれると2-4%の手数料が取られる上に資金が入ってくるまでに1ヶ月前後の期間があります。しかし、クリプトのウォレットにステーブルコインをやり取りすることができれば、手数料はほぼ無料かつ一瞬で資金の移動が完了します。(注:現状だと操作が面倒なのでそれを簡単にするサービスは必要かもしれません)
クリプトユースケースの新時代
大石剛司
ユーザーに馴染みのあるUI/UXが新しいアプリ利用へのゲートウェイとなる
私たちが普段使っているアプリケーションは、これまでは主にWebやスマホアプリを使うのが中心でした。しかし、近年注目されている「Superapp(スーパーアプリ)」の概念によって、ひとつのアプリやプラットフォームの中でさまざまなサービスを完結できる流れが加速しています。実際、ライドシェアのUberでデリバリーを頼んだり、TikTokでショッピングをしたりといったものがその代表例と言えるでしょう。
今後は、XやTelegram、Discordといったすでにユーザが使っているプラットフォームやアプリケーションを通じて、AIエージェントやDeFiアプリなど、多様な新しいサービスへアクセスできる可能性がどんどん広がっていきます。しかも、それらのプラットフォーム上では、ウォレットなどの要素さえも背景に統合され、ユーザーがその存在を意識することはだんだん無くなっていくことになります。
たとえば、Discordのサーバーにいながら直接AIエージェントとやり取りしたり、Telegramのボット機能を使って投資や決済サービスを利用したりと、 “操作するアプリはひとつだが、その裏には複数の機能・レイヤーが集約されている” というのが次の大きな潮流となりそうです。同時にそれらのアプリケーションのセキュリティやプライバシーの扱いなどはより大きな問題として取り上げられることになるでしょう。
DAOガバナンスの進化
従来のガバナンスはトークン保有者、そしてそのトークンを委任されたデリゲート(代議員的な存在)による投票によって意思決定を行うのが主流でしたが、今後は貢献度や実績など多様な要素を取り入れた専門的な部門がDAOの中に生まれつつあります。例えば、DAOをLPとみなし、コミュニティメンバーで専門性を持つ複数名がGPとしてDAOが管理するプロトコル、エコシステムのために投資を行っていく、などの動きです。
一方、TallyやAgoraが提供する投票・提案を一括管理する統一UI/UXを導入するプロジェクトがある一方で、Aragonのモジュール式ガバナンス機能を組み合わせ、DAOのニーズに合わせた柔軟な運営スタイルを実現する事例も増えています。
また、Ethereum以外のエコシステムへのDAOツールの展開も見逃せません。Tallyのマルチチェーン対応が進むなか、Realmsなど新興のDAOツールにも注目が集まり、DAOガバナンスをよりスムーズに運営するための環境が整いつつあります。
開発環境としてのEthereumエコシステム外の台頭
高速処理やDePIN活用に強いSolanaを支えるSealevel、新しい言語であるMoveを活用したVMを採用するSuiやAptosなど、近年はEthereum以外のブロックチェーン環境エコシステムにも注目が集まっています。彼らが目指すのは、Ethereumの進化がやや時間を要する部分を補い、速さや新しい設計思想を武器に、ユーザや開発者を獲得・維持しようとしています。
- EVM(Ethereum Virtual Machine)
堅牢かつ実績のある開発環境で、豊富なライブラリやツール、充実したコミュニティが強み。一方で、将来のスケーリングやアップデートに時間がかかる点が課題となりやすい。
- Sealevel (SolanaのVirtual Machine)
高速処理を実現するアーキテクチャが特徴で、大量のデータ処理とリアルタイム性が求められるDePINなどで優位性を発揮。
- Move言語ベースのVM(Sui/Aptos)
もともとFacebookのLibraプロジェクトで開発されたRustベースのMoveという新しいプログラミング言語を採用し、資源管理や安全性を重視した設計が魅力。Ethereum由来の言語とは一線を画しつつ、これからの開発者コミュニティ形成に期待が集まっている。
もっとも、中長期的な視点で見れば、Ethereumの思想や設計は依然として強い影響力を持ち、開発者やアプリケーション、そしてそのユーザを持ち続けると考えます。しかし、Webアプリケーション開発で複数のプログラミング言語やフレームワークが併存し続けているように、今後もさまざまなブロックチェーンエコシステムがそれぞれの強みを活かしつつ、開発者やユーザを引きつけ、独自のコミュニティを形成していくことが予想されます。
HyperLiquidとアプリ専用チェーンの可能性
木村優
2024年に最も盛り上がったのはHyperLiquidだったと思います。HyperLiquidはHyperBFTという高速な独自コンセンサスエンジンを持つ独自L1チェーンです。取引所というブロックチェーンにおいて最もPMFしているアプリケーションの一つで、汎用チェーン上のスマートコントラクトではなく、アプリ専用チェーンの成功例がまた一つ示されました。
過去にはdYdXのようなアプリ専用チェーンもあり、初の事例というわけではありませんが、むしろアプリ専用チェーンの実績がまた一つ増えたと考えられます。
アプリ専用チェーンは単にEVMの環境を複製してEthereumの混雑を回避するためのチェーンとは全く異なります。アプリ専用チェーンでは、トランザクションのデジタル署名の認証機構そのものをカスタマイズすることができ、従来のAccount Abstractionの発想でやりたかったこともチェーンネイティブに組み込むことが可能です。
この発想で、カストディ型のCEXとノンカストディ型のDEXのそれぞれの良いとこどりをした新たなモデルの取引所システムを、2024年に大きく発達したモジュラーブロックチェーン技術を用いて作れるのではないかという仮説を持っており、実際に開発を進めています。
2025年はクリプトにいる人々にとって大きな節目となる年になるでしょう。Tanéは引き続きクリプトの本質的な価値に貢献しつつ、それを社会に広めていく活動に力を入れていきます。事業拡大に伴い仲間を募集しています。ぜひこちらからご連絡ください。
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