2025米国規制レポート vol.3 ~ステーブルコイン規制の各国比較~

2025米国規制レポート vol.3 ~ステーブルコイン規制の各国比較~

日付
June 16, 2025
タグ
Research
著者
Tomoyo Iwatsuka
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免責事項:この投稿は一般的な情報提供のみを目的としています。また、投資判断の是非を評価するために利用されるべきものではありません。また、会計、法律、税務に関するアドバイスや投資推奨に依拠すべきものではありません。本投稿は執筆者の現在の意見を反映したものであり、Tanéまたはその関連会社を代表して作成されたものではなく、必ずしもTané、その関連会社、またはTanéに関連する個人の意見を反映するものではありません。ここに反映された意見は、更新されることなく変更されることがあります。

ステーブルコインを巡る各国規制の状況について

第三回目のレポートとなる今回は、暗号資産として近年その存在感を高めているステーブルコインについて主要各国(地域)の規制状況についてまとめました。

ステーブルコインの定義

まず最初にステーブルコインの定義についておさらいをしておきたいと思います。

ステーブルコインとは以下のような特徴をもった暗号資産であり、法定通貨と暗号資産を橋渡しする役割を果たしています。グローバルなブロックチェーンプロジェクトでも、自己の発行するトークンに代わって、USD連動(ペグ)のステーブルコインでプロジェクトの貢献者への報酬支払を行うといったことも一般的に行われています。

発行方法
ブロックチェーンや暗号技術を用いたデジタル通貨
価格
法定通貨やコモディティ(金など)の価格と1:1連動するように設計。このため他の暗号資産トークンよりも価格が安定する傾向にある
利点
・送金コストが安く、送金スピードが早い(法定通貨の銀行間SWIFT送金との比較)

・他の暗号資産トークンとシームレスに交換等が行える(チェーンやプロトコルの互換性などの問題はある) ・NFT等のデジタルアセットとの交換手段としても普及 ・スマートコントラクトに支払いの執行を組み込むことが可能 | | 課題 | 現実社会での決済手段として普及拡大が課題 ・事業者への支払手段 ・個人間送金手段 ・クレジットカード決済との統合 等 越境送金を用意にするメリットの反面、マネロン対策が問題視されている |

現在発行されているステーブルコインは法定通貨にペグされたものが多く、特にUSドルのシェアは非常に高い(主要マーケット情報媒体からの推定で95%超)ものとなっています。

参考:https://writing.tanelabs.com/%e6%97%a5%e6%9c%ac%e8%aa%9e/2025%e7%b1%b3%e5%9b%bd%e8%a6%8f%e5%88%b6%e3%83%ac%e3%83%9d%e3%83%bc%e3%83%88-vol2

各国での立法状況

日本、欧州、米国での立法状況を表したのが以下の表です。

2022年〜2023年にかけて日欧では先んじて法整備が実施されており、すでに施行済みとなっています。一方で米国においてはバイデン政権下で他のデジタルトークンと同様に証券性を巡る不透明な状況が続いていました。

今年になってトランプ政権に変わり、ステーブルコイン法制の早急な立法が大統領からもオーダーされているところです。2月頃に発せられたこのオーダーは100日以内程度での新法成立を目指していましたが、5月21日現在、立法成立しておらず上院下院両院での議論が続けられています。

地域
法令
成立時期
施行時期
日本
改正資金決済法(R4改正)
2022年6月3日
2023年6月1日
欧州
MiCA
2023年4月20日
2024年6月30日
欧州
電子マネー指令
2009年9月16日
2009年10月
米国
GENIUS Act
連邦議会審議中
N/A
米国
STABLE Act
連邦議会審議中
N/A

※各法律の新法成立時期ではなくステーブルコインに関連する規定の成立、施工時期を記載しています

※電子マネー指令では直接ステーブルコインに関する言及はなく、MiCAがステーブルコインの類型をARTとEMDの2つの枠組みに分類したことからEMDに分類されるステーブルコインが電子マネー指令に服することとなっています(後述)

各国各論:日本

日本ではステーブルコインの発行方法として以下の2種類が存在します。ステーブルコインを見越して新設された電子決済手段等取引事業は、発行ではなく取り扱いをする業務に規制がかかるという形式になっています(なお、資金移動業者であれば発行も可能)。

電子決済手段等取引業
資金移動業務
定義
銀行あるいは資金移動業者が発行する電子決済手段(ステーブルコインを念頭に置いている)の移転、流通、仲介を行うサービス。
銀行以外が行う「為替取引」に適用される。一般的なプリペイド型送金サービスや2社間の決済取引を可能にするサービス。 自ら資金を預かり送金するサービス
管轄
資金決済法に服する
資金決済法に服する

いずれも資金決済法の規制を受ける業種となりますが、法令内で業務内容ごとに細かい規制が異なっています。特に資金移動業は銀行金融機関以外のものが為替取引(本法が成立するまでは銀行業法の適用をうけるしかなかった)を行うための区分のため、全体的に厳しい規制がかかります。

電子決済手段等取引業
資金移動業
ライセンス制度
登録制(一般的に許可より簡易)
登録制(一般的に許可より簡易)
ライセンス要件
・一定の業務運営体制 ・財産的基礎 ・利用者保護措置の実施
・株式会社であること ・財産的基礎 ・内部統制 ※銀行的な業務に近いため、電子決済手段等取引業より厳格
事業スコープ
他社発行ステーブルコインの決済、仲介
ステーブルコインの発行、送金
消費者保護規制
・顧客財産の分別管理、保全義務 ・顧客からの金銭預かりの禁止 ・重要事項説明義務、苦情管理体制
・顧客財産の分別管理、供託義務 ・事前説明義務、払い戻し義務、苦情処理体制 ※財産保全措置の要件がより厳格
財務要件
一定の財産的基礎
履行保証金供託または保証契約 自己資本比率規制の維持義務
マネロン対策
犯収法適用。KYC含めた取引時確認、取引記録義務と疑わしい取引の報告義務
犯収法適用。義務は左同
管轄当局
金融庁
金融庁
罰則
行政指導、業務停止命令、業務改善命令、罰金等
行政指導、業務停止命令、業務改善命令、罰金等
その他の特徴
・発行者との間で顧客財産に関する損害賠償義務の責任分担を明確化する契約締結が必要となる(第六十二条の十五
主な事業者
SBI VCトレード(第一号登録事業者)
PayPay(PayPayマネー)、楽天(楽天キャッシュ)、Kyash など

また、日本では上記の他に銀行がステーブルコイン事業(発行や仲介)を行う場合には銀行法に、信託受益権のスキームを用いてトークンを発行する場合には信託法にそれぞれ従う形となります。(なお信託受益権スキームは資金決済法の電子決済手段等取引業の対象にもなります)

また、明示的に規制のなかで利息の付与等は禁止されていませんが、証券の性質を持つ形で発行された場合には証券扱いとなり、証券取引法等の適用となります。

なお、日本では具体的に資金移動業の登録を用いたステーブルコインは現在存在しません。(日本円とペグするJPYCはブロックチェーン技術を用いていますが、設計としては前払式支払手段(第三者発行型)でありいわゆるプリペイド電子マネーと同じです。個人間送金(受取資金の最終的な現金化)には利用できないなどの機能制限があります)JPYCは夏頃を目処に資金移動業を活用したステーブルコインの提供を目指していると発表されています。

他方ですでに資金移動業の登録を受けている事業者は多数存在し、今後ステーブルコインの普及が進むに連れこれらの企業が進出してくる可能性があります。(なお、1種から3種が存在し、1種か2種事業者であればステーブルコインの発行が可能です)資金移動業者は制度上発行がすでに可能であることのほか、強力な決済加盟店ネットワークをすでに保有している事業者が複数存在することから、そういった事業者は新しい決済手段であるステーブルコイン市場において競争上優位であると考えられます。

参考:資金移動業登録事業者一覧(R7.4.30)https://www.fsa.go.jp/menkyo/menkyoj/shikin_idou.pdf

同様に既存の銀行についても(すくなくとも制度上は)ステーブルコインへの参入が比較的容易なポジションにあると思われます。実際に国内では北國銀行が地域通貨「トチカ」を預金型のステーブルコインとして2024年1月から発行、その他あおぞら銀行や三菱UFJ信託銀行などが検討の取り組みなどを公表しています。

銀行においては銀行固有業務である「預金の受け入れ(と利息の支払い)」、「為替取引」、「貸金の貸付」などとの組み合わせにおいてどのようなビジネス展開をするとステーブルコインの利点を活かせるかがポイントとなりそうです。

各国各論:欧州

欧州ではまずステーブルコインを以下の2種類に分類しています。

ART
EMD
定義
複数の資産(例:コモディティ、通貨など)に価値が連動するトークン。
単一の法定通貨に価値が連動し、決済目的で設計されたトークン。
管轄
MiCAの規制に服する
電子マネー指令の規制に服する(他の電子マネーと同じ扱い)

上記の通り異なる制度で管理されるため、適用される規制の内容が異なります。また、電子マネー指令はEU指令であり、これ自体は具体的法令ではないため具体的な規制内容は指令をベースにした各国での立法が行われいます(このため各国ごとに細かいルールの違いが出てきます)。

ART
EMD
ライセンス制度
認可制(少額発行者向けの規制緩和一部あり)
認可制
ライセンス要件
・EU法人の設置 ・ホワイトペーパーの公開 ・経営陣の的確要件、内部統制 ・事業契約や資本情報の提出
・EU法人の設置 ・経営陣の的確要件、内部統制 ・資本要件の充足
事業スコープ
発行者規制とサービス提供者(CASP)規制の両側面がある
主に発行者規制
消費者保護規制
・誠実対応義務 ・ホワイトペーパー等の情報開示義務 ・償還請求権の明確化 ・支払利息の禁止(投資商品化を防ぐため)
・償還義務 ・顧客資産の分別管理義務 ・情報開示義務
財務要件
・1:1の裏付け準備金 ・発行規模ごとに自己資本の最低金額設定 ・定期的な資産情報の開示、監査義務
・最低自己資本金額の指定 ・発行済マネー残高、取扱高に応じた追加自己資本規制
マネロン対策
・厳格なマネロン規制の実施 ・KYCやCDD(カスタマーデューデリジェンス)の義務 ・全取引の送金人/受取人情報の収集保存義務(2024/12/30〜) ※他の暗号資産プロバイダー、金融機関と同じレベルの規制
・KYC,取引監視、疑わしい取引報告義務 ・MiCAと比較すると比較的軽微
管轄当局
主にEBA(欧州銀行監督機構)および各国金融当局
EU各国の金融当局
罰則
行政処分、罰金等の制裁 重大な違反の場合には域内業務継続の停止
行政処分、罰金等の制裁

具体的にEMDとして登録を受けているステーブルコインにUSDCなどがあります。 他方でステーブルコインの中で現在圧倒的地位を占めるUSDTについては申請をおこなっておらず、EU圏内での流通環境がやや不安定な状況です。(これを受けてBinanceがUSDTの取り扱いを停止する等の影響がでています)

EU規制の特徴は域内法人設置が必須になっているという点があり、既存ステーブルコイン発行事業者はEU域内での流通を適法に行うためにはEU国内の何処かで法人を設置する必要があります。

その他、マネロン対策の顧客チェックやトラッキングの義務も日本と比べて比較的厳格なものがもとめられる印象です。

また、OECDによる国際租税回避の枠組みとして CARF(租税条約に基づく暗号資産取引に関する国際的な情報交換)という国際条約の運用が開始されており、参加国の中心はEU加盟国となっています。(なお、日本もこの条約にしており、2026年1月1日〜国内法の改正施行を経て同様の取り組みを実施することになる見込みです) CARFでは条約参加国間で非居住者による国内事業者サービスでの暗号資産取引履歴を交換することが可能になっています(反対の作用として、参加国内の事業者は国内法を通じて非居住者の基本情報や取引履歴を収集保存し、各国当局を通じて他の参加国に情報提供する義務を課されます)

参考:CARF導入に同意している国名リスト(2025年5月調べ) アルメニア、オーストラリア、オーストリア、バルバドス、ベルギー、ベリーズ、ブラジル、ブルガリア、カナダ、チリ、クロアチア、キプロス、チェコ、デンマーク、エストニア、フィンランド、フランス、ドイツ、ギリシャ、ハンガリー、アイスランド、アイルランド、イタリア、日本、韓国、リヒテンシュタイン、リトアニア、ルクセンブルク、マルタ、メキシコ、オランダ、ノルウェー、ポルトガル、ルーマニア、シンガポール、スロバキア、スロベニア、南アフリカ、スペイン、スウェーデン、スイス、英国、米国 *2027年までのCARF導入に同意している英国領 ガンジー、ジャージー、マン島、ケイマン諸島、ジブラルタル 米国については一度加入に同意したものの、具体的な対応時期について不透明な態度を取っている状況

各国各論:アメリカ(審議中)

高いステーブルコインシェア率を誇るドルの発行国であるアメリカですが、法整備については日欧に遅れを取っており、2025年2月のトランプ政権発足以降から本格的な立法作業が開始されています。

アメリカでのステーブルコイン立法の方向性は大まかに以下のとおりです。

  • 許可されたステーブルコインは決済手段として扱われ、証券法等の規制からは除外される
  • 日欧と同様にライセンス許可制を採用し、連邦(少額事業者の場合には州法選択の余地を残す見込み)の管轄に置く

現在、下院と上院それぞれから提案されている2種類のステーブルコイン法案が議会の審議に掛けられ、日夜修正を重ねられています。以下ではその2法案についての比較を行います。(情報は2025年6月4日時点)

GENIUS Act
STABLE Act
ステーブルコインの定義
デジタル資産であり、固定額の金銭価値に償還、換算、または買い戻しが発行者に表明されているもの。(通貨や伝統的な金融商品を除く)
支払いまたは決済手段として使用されるか、そのように設計されているデジタル資産。 通貨建てで発行されているもので、発行者が固定額の金銭価値に償還、換算、買い戻す義務を負うもの。
ライセンス制度
連邦政府による許可制 (発行額100億ドル未満は州レベルの規制を選択可能)
連邦政府による許可制。 州法レベルの規制を選択することもできるが、管轄域内での活動制限がかかる
ライセンス要件
・準備金規制 ・月次報告義務 ・監査を受ける義務 ・AML年次認証義務 ・利息支払いの禁止
・準備金規制 ・月次報告義務 ・監査を受ける義務 ・資本流動性要件 ・利息支払いの禁止
事業スコープ
発行者と預かり業者を主な規制対象としつつ、取り扱い制限などとの関係で流通事業者へも一部規制をかける
発行者を主な規制対象とし、取り扱い事業者や預かり事業者への規制も盛り込む
消費者保護規制
・政府による裏付けや保証があるかのような誇大広告等の禁止 ・手数料開示義務 ・破産時の優先債権 <カストディ事業者> ・準備金の取り扱い制限(コイン保有者に属するものとして扱う必要) ・分別管理義務 <販売事業者> ・許可されたステーブルコイン以外の取り扱いの禁止等 ・外国発行のステーブルコインについても国内と同等の管理基準、政府監督下にあることなどが要件
・政府による裏付けや保証があるかのような誇大広告等の禁止。かつ、積極的に政府からの保証はないものであることを表示する義務 ・破産時の優先債権 <カストディ事業者> ・顧客資産保護体制などについての政府への開示義務 ・分別管理義務 <販売事業者> ・許可されたステーブルコイン以外の取り扱いの禁止等 ・外国発行のステーブルコインについては米当局が審査し、リスト公表を行う想定
財務要件
・準備金とできる債権についてかなり具体的な指定あり ・資本要件、流動性基準 ・月次での検査
・準備金とできる債権についてかなり具体的な指定あり ・準備金の担保、再担保、再利用の禁止 ・資本要件、流動性基準 ・月次での検査
マネロン対策
・Bank Securityおよび制裁法の遵守(金融機関レベル) ・CDDの実施 ・年次認証
・Bank Securityおよび制裁法の遵守(金融機関レベル) ・CCD実施
管轄当局
連邦銀行規制当局、組合間特徴、財務長官等
エンティティ事に細かい監督当局が異なるが、連邦レベルなのは同様。他方で執行自体は州当局の権限
罰則等
・罰金、禁錮刑 ・承認取り消し、停止命令、中止命令などの執行措置 <販売事業者> ・発行者がAML対策を行った場合、流通プロバイダへも取り扱い禁止命令を出せる
・各種罰金 ・登録取り消し、停止命令、中止命令などの執行措置
その他
無許可営業者の猶予期限は施行から2年間
無許可営業者の猶予期限は施行から18ヶ月

※上記、特段記載がない場合にはすべて発行者に課される義務

GENIUS法案、STABLE法案はこれまで公式には1−2回のドラフト修正が公開されてきており、両方案の内容は徐々に歩み寄ってきている印象があります。細かい点は異なるものの、大枠としては日欧と類似した国家当局の管理下で発行、提供されるステーブルコインビジネス規制となりそうです。

また、米国ではすでにステーブルコインの発行、流通を行っている事業者が多く存在することから、無許可事業者に対しての猶予期間が設定されていることも特徴です。

法律施行後はこの猶予期間を利用して、国内の発行事業者やカストディ事業者においては許可取得や体制構築の対応、取引所等の販売事業者においては取り扱いステーブルコインの見直しの動きが行われることが予想され、外国発行者にとっても自国での管轄当局への登録対応を意思決定する必要性などが生じてきます。(具体的にどの国の制度に基づく登録、許可を得ていれば米国政府が許可できる外国ステーブルコインと判断するのかにも今後注目)

まとめ

主要地域として日、欧、米のステーブル法案を紹介してきましたが、共通点としては以下のポイントとなります。

  • ステーブルコインは何らかの資産(多くは通貨)と1:1ペグされたデジタル資産であり、決済手段の位置づけ
  • 政府による許可若しくは登録制
  • 発行者にかかる規制が制度の中心
  • 金融商品を扱う他の事業者と同等の顧客資産保護規制
  • 利回りの提供を規制
  • マネロン対策を重視