Lido - Liquid Staking Protocol #1 基本的な情報と市場での立ち位置

日付
August 29, 2024
タグ
著者
Shoji Tateno
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Tanéは、これまでLidoのDAOガバナンス、バリデータ運用などに積極的に参加してきました。TanéがLidoに貢献する最も重要な理由は、Lidoはイーサリアムのエコシステムにとって、非常に重要なプロトコルだからです。

多くの方にLidoの理解を深め、関わってもらうことを目的として、本記事を書くことになりました。これから、3回に渡りLidoを様々な側面から紹介していきます。今回はその導入編として、Lidoの基本的な情報及び外部環境を紹介します。

主な機能

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Lidoとは、イーサリアムのNo.1のリキッドステーキング(LST)のプロトコルです。

リキッドステーキングプロトコルというのは、以下の4つの特徴を持っています。

1. 少額でもステーキング報酬が獲得できる

本来、イーサリアムのバリデータ運用を通じたステーキング報酬を得るためには、32ETHが必要でした。それは、2024年8月20日時点で1000万円を超える額であり、ほとんどのユーザーはその報酬にアクセスできません。しかし、Lidoに預けることで、少額からでもイーサリアムのステーキング報酬による利回りにアクセスすることが可能になります。

2. バリデータ運用の手間は必要ない

ステーキング報酬にアクセスする上で、Lidoなどのサービスがない時には、自分自身でバリデータ運用をする必要がありました。運用自体は個人でも可能ではあるものの、非常に手間がかかるというのが実情です。

クラウドサーバーやハードウェアを利用してバリデータを準備するという手間があり、それが非常に厄介なだけでなく、バリデータのパフォーマンスの維持や改善にも多大なる手間や専門性を必要とします。例えば、なんらかのエラーによってバリデータが適切に稼働していない時間が一定以上あると、ペナルティの対象となり、バリデータ運用の報酬が差し引かれてしまいます。それだけでなく、二重署名などイーサリアムの安全性を損なうエラーが起きた場合には、デポジットしているETHが没収されます。最悪の場合には32ETH全てが没収されてしまうこともあります。

このように、ステーキング報酬にアクセスするのは簡単ではありませんでしたが、Lidoがあることによってユーザーはバリデータ運用の手間を気にする必要がなくなりました。LidoにETHを預けることで、Lidoのノードオペレータがバリデータ運用を代行してくれるので、手軽にステーキング報酬を受け取ることができます。

3. stETHによる資本効率の向上

別の側面としては資本効率の高さが挙げられます。ETHをLidoに預けるとstETHというトークンを受け取ることができます。stETHはETHの預かり証ですが、それを活用して、DeFiで運用するなどが可能です。

これは、つまりETHを預けたことでステーキング報酬を受け取りながら、同時にDeFiでの利回りを得ることができるという両取りを可能にします。

4. セルフカストディ

Coinbaseなどの中央集権取引所を中心にステーキング報酬を受け取るソリューションは他にも存在しています。しかし、“Not your keys, not your coins”という言葉があるように、鍵管理を自分で行わないで誰かに任せるというのはそれだけでリスクがあるとみなされており、過去にもそれが一つの原因として、多くのユーザーが損害を被ったこともありました。

Lidoはセルフカストディを維持したまま使用することができます。

セルフカストディというのは、つまりアセットを管理する鍵が自分自身の手元にあり、他の誰にもそのアセットを勝手に動かす権利がないということです。ブロックチェーンを使うことの利点の一つは、このように自分のお金を誰にも管理させず、誰にも恣意的に没収されないというものです。ステーキング報酬を得ようとする上ではLidoを使うことでその利点を維持することができます。

バリデータ運用の仕組み

Lidoに預けられたETHは、Lidoのプロトコルの仕組みによって、Lidoが指定するノードオペレーターたちによって運用されます。つまり、Lido DAOとしてノードオペレーターを選定して、その人たちにバリデータ運用を任せており、そこで得たステーキング報酬を分け合っているというものです。今後の記事でこれについてもより詳細に解説します。

これまでの歴史

上記で見てきた通り、イーサリアムのPoSの課題として、32ETHが必要であることやバリデータ運用の手間やコストといった部分を解決し、そこにさらにステーキング報酬とDeFiでの運用の両取りを実現するサービスとしてLidoは登場しました。

Lidoを最初に提案したのは、Vasiliy ShapovalovKonstantin LomashukJordan Fishの3人です。

KonstantinとVasilyの二人は2014年にcyber FundというVCを設立しており、Lido以外にもSolana、Arbitrum、1inchなど名だたるチームに初期から投資をしています。また、KonstantinはP2P Validatorという大手ノードオペレーターも創業しており、2020年には、VasilyはCTOとしてP2Pに参加しています。

Lidoはこのような、VCとしても、ノードオペレーターとしても早期からエコシステムに対して大きく貢献してきた人たちが始めたプロジェクトです。

Lido自体は2020年の10月に発表され、その2ヶ月後にはリリースがされました。Lidoの仕組み自体は、PoSのチェーンであれば対応可能なものであるため、当時はPolkadotやTerraなどをはじめとして様々なチェーンで展開されました。その後、その多くは稼働を停止してしまいましたが、イーサリアム上のLidoの他にはPolygon上のLidoはまだ稼働しており、Lidoを通じたMATICのステーキングが可能です。様々なチェーンへの対応の後も、様々な改善を続けてきています。例えば、様々なDeFiやL2での運用により適した形のトークンとして、stETHをラップしたwstETHをリリースしました。

最近の取り組み

Lidoはイーサリアムへの影響力が大きすぎるがゆえに批判を浴びることもあります。イーサリアム上のETHのデポジットの1/3以上をLidoが占めることで、イーサリアムを攻撃することができるのではないかという批判は常に存在しています。そのため、Lidoではより分散性を強化する取り組みをいくつか行なっています。

分散化の推進 - DVT及びCSM

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Lidoの分散性を高める取り組みの一つが、分散型バリデータ技術(Distributed Validator Technology, DVT)のプロジェクトであるSSV NetworkObol Collectiveとの提携、導入です。DVTというのは、従来の単一のバリデータの役割を複数のオペレーターに分散させることで、障害に強いイーサリアムバリデータの運用を可能にします。これにより単一障害点が排除され、バリデーター運用の全体的なセキュリティが向上します。これをLidoに導入することで、Lido自体の障害耐性が上がるだけでなく、これまでのようには高度な専門家集団しかLidoのノードオペレーターになれなかったところから、より幅広い層のノードオペレーターがLidoのオペレーションに参加することが可能になります。

また、類似する取り組みとして、Community Staking Moduleという、2ETHほどの少額のデポジットによってLidoのノードオペレーターになれる仕組みにも取り組んでいます。これらについては今後の記事にて詳しく解説していきます。

目標設定 - GOOSE

GOOSEというガバナンスにおける目標設定のアクティビティを昨年より開始しました。GOOSEはGuided Open Objective Setting Exerciseの略であり、方針をオープンに決めようという取り組みです。これは、Lidoとしての1年間、あるいはさらにその先に達成すべきゴールを定めるためのものであり、会社経営でよく用いられるOKRとも非常に近しいものです。これで、1年間の基本的な指針が定まるため、コアコントリビュータの予算などは基本的にここで決められたことに従います。

昨年のGOOSEの議論においては、GOOSEというアクティビティが発表されてから、Lidoのアドバイザーであり、Flashbotsにも関わっているHasuという人物の提案が議論され、承認されました。昨年のGOOSEの提案はHasuのみによって行われており、GOOSEを通じた分散的な戦略決定というのはまだまだ改善が必要な領域ではあるものの、重要な戦略領域の議論をより分散的に行っていくという取り組み自体は進んでいます。GOOSEでHasuが提案した戦略のゴールは3つあり、

  1. Lido DAOとして、効果的で、分散しているガバナンスを実現する。
  2. 市場で最も優れたバリデータセットがLidoに集まる。
  3. stETHをイーサリアムエコシステムで最も使われているトークンにする。

となっています。こちらについては後の記事でより詳細を解説します。まずはその前段となる、Lidoの市場での立ち位置についてです。

最大のLST - Lidoの市場での現在の立ち位置

イーサリアム全体のLSTのTVLが8月23日時点で、$36B(DeFi Llama)、その70%を超える$25.8BをLidoが占めています。その次のRocket Poolが$3.2B、シェアは9%にも満たない水準であり、Lidoが最大のLSTプロトコルです。

LSTの市場自体は、第一想起を一度取ると、預かり証であるLST(LidoでいうstETH)がDeFiなどの様々な領域で優先的に対応してもらえるため、LSTとしてのユーティリティやUXが向上しやすくなります。そして、ユーティリティやUXが向上すれば、さらにいろいろなユーザーが使うようになります。これが非常に強力なネットワーク効果を生み出しました。そのため、LSTの第一人者であるLidoは結果として、独走状態にいると考えられます。

また、LSTと限定せずにCoinbaseBinanceなどの分散型でないものも含めたイーサリアムのETHのデポジット量で見ても、Lidoは28.6%で1位となっており、2位のCoinbaseが12.4%、3位のEigenLayerが10.4%となっています。(Dune

ただし、Lidoのシェアは2023年の7月には32%あったものが、今年の2月から下落し、現在の水準である28.6%となっています。(Dune)その背景には、EigenLayerというプロジェクトの急激な成長(Dune)があります。EigenLayerにデポジットされている資産の63.7%(Dune)はLidoのstETHであるため、ここについてはLidoとEigenLayerの成長は相反しません。ただし、残りの36.3%はLidoを経由せずにデポジットされているため、Lidoのシェアの減少につながっている可能性があります。このようにLido自身はイーサリアムエコシステムの中で絶大なシェアと影響力を持ちながらも、常に新たなプロジェクトの台頭の影響を受けており、これらに柔軟に対応することが求められています。

終わりに

今回は、導入編としてLidoの基本情報に始まり、その歴史的経緯や取り組み、現在の市場での立ち位置などについて解説しました。

次回以降で、GOOSEやReGOOSEそれぞれの具体的な中身や、技術的分散性やガバナンスの分散性に向けて行なっている詳細な取り組みについて解説します。

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