前回の記事にて、Lidoというプロトコル自体についてのおさらいと、Lidoの市場における立ち位置などについて解説しました。
第2回となる今回はより踏み込んで、Lidoの成長戦略であるReGOOSEの詳細と、また別に、重要な戦略であるガバナンスの分散性の向上の取り組みについて解説します。
Lidoの価値観と目指していること
ReGOOSEの詳細に入る前に、Lidoの価値観について紹介します。
Lidoは分散性や検閲耐性をはじめとして、イーサリアムで重視されている価値観に重きを置いています。実際に、Vision, Mission, Purposeが定められており、以下のような内容となっています。
つまり、安全で簡単で分散化しているステーキングサービスを提供することを通じて、Lidoとしてもイーサリアムの分散性や検閲耐性に貢献し、イーサリアムがインターネットの協調や価値のやり取りのレイヤーとなる世界を実現することを目指しています。
そのため、Lidoの方針を定めたGOOSEにおいても3つのゴールとして、ガバナンスの分散性、技術的分散性、stETHの成長が掲げられており、成長だけでなく分散性を重要視していることがわかります。
ReGOOSE
前回、Lidoが市場においてどのような立場に置かれているかについては解説しました。ここでは、その対応としてのReGOOSEについて説明します。
ReGOOSEは今年5月にLidoのアドバイザーであるHasuによって提案されています。これはGOOSEで定められているものの補足的な役割として市場の変化を踏まえた成長戦略を定めています。ReGOOSEでは、以下の3つの変化を重要な点として捉えています。
最も大きな変化としては、前回述べたとおりリステーキングの登場があります。ETHを運用する選択肢として、これまでは、DeFiの利回りやLidoが提供するようなバリデータ報酬が主でした。そこにリステーキングが登場したことによって、リステーキングによる報酬獲得というものが新たに提示されました。それによって、LidoはETHのステーキングのシェアを少なからず落としています。
また、MVIに関する議論もあります。MVIというのはMinimal Viable Issuanceの略であり、日本語では実行可能な最小限の発行と訳すことができます。これはイーサリアムのETHの新規発行のペースを適切にコントロールしようという議論で、まだ導入への道のりは長いものの、イーサリアムのコアなところで少しずつ議論されているテーマです。(詳細) これは、上述のEigenLayerを利用したリステーキングやMEV(弊社ブログ)など、バリデータの収益機会が増えてきている中で、今のようなETHの発行ペースは本当に必要なのか、もう少しETHの発行量を抑えたとしても十分にセキュリティを保つことができるのではないか、などの問題意識から始まっています。まだまだ先行きは長いものの、これによってイーサリアムのステーキング報酬が引き下げられた場合には、Lidoは当然大きな影響を受けることになります。
もう一つは、Preconfirmationという新しい収益機会の登場です。イーサリアムやイーサリアム上のロールアップの高速化、利便性の向上のために現在研究開発が行われている領域です。これはLidoにとって、追加で収益を上げられる機会となる可能性があります。これについてもLidoは、セキュリティに留意しつつ積極的にサポートしていこうという議論を行なっています。
これらを踏まえてReGOOSEではいくつかの重要な方針を定義しています。
- 安全性と分散性を引き続き重視する
- (MVIなどの)イーサリアムのステーキングのロードマップの議論に参加する
- Lidoはリキッドステーキングトークン(LST)でありつづけ、リキッドリステーキングトークン(LRT)にはならない(よりリステーキングに深く結びついた商品にはならない。)
- イーサリアムのロードマップに合致する、バリデータに関するサービスを取り込んでいく。(主にはPreconfirmationのこと)
- stETHをリステーキングの市場においても最も使われるアセットにする
ここにおいて、最も重要な役割を果たすのがLido Allianceという枠組みです。
Lido Alliance
上記5つの方針にあるように、LidoはLSTのプロジェクトであり続けながら、同時にリステーキングの市場における立場の強化を目指しています。そのためには、外部プロジェクトとの提携が不可欠です。
そこでLido Allianceが登場します。Lido AllianceはDAOのための戦略的パートナーシップの枠組みで、今年の5月に提案され、承認を受けています。
すでに関係プロジェクトの支援の枠組みとして、LEGOというグラントの仕組みやLOLという流動性インセンティブを提供する枠組みはありました。しかし、これらに収まらない包括的な戦略提携を組むというのは、DAOにとっては難しいことでした。
そこで、DAOでありながら柔軟にプロジェクトと協力体制を結ぶことを目指してLido Allianceという枠組みが始まりました。主には上記方針にあるように、リステーキング市場におけるstETHの利用の拡大や、Preconfirmationの導入などを目的とした提携を行なっていくためのものです。すでにMellowとDropという二つのプロジェクトとの提携については提案が通過しており、プロジェクトから10%のトークンサプライをLido DAOに提供する代わりに、Lidoからgrowthに関するものを中心に様々なサポートを受けることになっています。
ガバナンスの分散性
繰り返しになりますが、ReGOOSEの元となるGOOSEにて、Lidoの基本的な方針は定められていました。そこでは以下のようなGOOSE3本の軸が提唱されています。
- ガバナンスの分散性
- 質高く、分散されたバリデータセット
- stETHのグロース
ここまでは3のオリジナルのGOOSE提案からアップデートされたReGOOSEやLido AllianceなどのLidoの成長戦略について解説しました。
ここでは1のガバナンスの分散性についての取り組みについて紹介します。2のバリデータについては、最終回の記事にて扱います。
Lidoが分散性を重視していることについては先に述べましたが、その具体的な取り組みとして3つ紹介します。
1つ目は、ここまで何度か登場しているGOOSEという取り組みそのものです。前回も紹介したように、DAOとしての方針やOKR、戦略などの上位の領域のプランニングを分散化するというのは、簡単なことではありません。まだ始まったばかりですが、GOOSEを通じてそれらのプランニング機能すらも分散化させていくことを目指して試行錯誤を続けています。
そして残る二つが、Dual GovernanceとOn-chain delegationです。
Dual Governance
ガバナンス分散化の取り組みの2つ目がDual Governanceです。
Dual Governanceとは、LidoのガバナンストークンであるLDOのホルダーによるガバナンスと、ユーザーであるstETHのホルダーによるガバナンスの二院制の実現を指しています。この導入の背景には様々な理由がありますが、最も大きなものとしては、LDOホルダーとstETHホルダーの利害不一致に対する懸念があります。
現在はまだLDOホルダーによるガバナンスのみとなっていますが、ここではユーザーであるstETHホルダーの声をLDOホルダーが代弁するという構造になっています。彼らが必ずしも同じ人物ではなく、利害も一致するとは限りません。stETHホルダーにとって不利益な判断をLDOの価格上昇のために行なってしまう懸念など、この構造は潜在的な危険性を孕んでいます。
この問題を解決するための解決策として、Dual Governanceについては2022年から継続的に議論が行われていました。最終的なデザインは今年の4月に提案され、承認されています。来年の上半期中に実際に導入される予定です。
Simple On-chain Delegation
Lidoのガバナンスに意味のある形で参加するためには、ステーキングに対する深い知識やノードオペレータや周辺プロトコルの理解などが不可欠であり、一般的なLDOホルダーにはハードルが高いと考えられます。そこで、適切に投票権を委任することで、専門性が高い個人や組織にガバナンスを委託しつつ、その最終的なコントロールをLDOホルダーが持ち続けるということが重要になります。
Simple On-chain Delegationは、Lidoのガバナンスにおけるオンチェーン投票権を委任するための仕組みです。Lidoガバナンスにおける投票はSnapshotによるものと、オンチェーン投票の2段階があり、前者については委任が可能でした。後者については課題も多く、これまで実現されてきませんでした。
3月に提案され、可決された後、8月に導入が完了しました。これによって、代議員のような存在であるデリゲートに対して、誰でもオンチェーン投票の委任ができるようになりました。
ここからこの仕組みを活用して、オンチェーン投票権の委任を促進し、より多くの組織や個人がLidoのガバナンスに参加することが期待されています。
TanéもデリゲートとしてLidoのガバナンスに参加しています。LDOホルダーの方は、ぜひTanéへの委任をご検討ください。
委任はこちらのスレッドに沿ってから簡単に行うことができます。 Tané Tané on Twitter / X
終わりに
今回は、Lidoの成長戦略であるReGOOSEの詳細や、ガバナンスの分散性強化の取り組みについて紹介しました。
次回の最終稿で、バリデータの分散性に関する取り組みや、具体的な仕組みについて解説します。
Tanéについて
Tanéは、分散化が可能とする「信頼できる中立性」がイノベーションを生み出す源泉であり、Cryptoの本質だと考えています。今後も投資、事業の両側面から積極的にエコシステムに貢献していく所存です。
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