Lido - Liquid Staking Protocol #3 Lidoのバリデータ運用

日付
September 27, 2024
タグ
著者
Shoji Tateno
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ここまで第1回で、基本的な情報と市場での立ち位置について、続いて第2回で成長戦略とガバナンスについて解説してきました。

最終回となる第3回は、Lidoがユーザーから預かったETHでバリデータ運用を行う仕組みについての詳細と、その分散性をどのように高めていこうとしているかを解説します。

バリデータ運用における方針

これまでも、Lidoのノードオペレータにはパフォーマンスの高さだけではなく、バリデータを運用する地域や使用するクライアントなど、あらゆる点での分散性、多様性などを常に求められてきました。

そこからさらに進んで、前回も紹介した通りLidoのGOOSEでバリデータ運用についても野心的な目標を掲げています。その目標とは、バリデーターセットの質の高さとパーミッションレスな参加の両立です。

より具体的には、以下のことを中長期で目指しています。

  • 誰もが許可なしにLidoのノードオペレータとして参加できること
  • 5000のノードオペレータがLidoに参加していること
  • 全体として高いパフォーマンスを実現すること
  • リスクが低減された設計にすること
  • (これらを通じて)バリデータ運用の自由市場となること

この達成に向けた施策として、これから紹介するStaking Router, DVT, CSMなどが存在しています。

DVT

DVTは、分散型バリデータ技術、Distributed Validator Technologyの略です。これは、従来の単一のバリデータの役割を複数のオペレーターに分散させることで、障害に強いイーサリアムバリデータの運用を可能にします。

これまでLidoのノードオペレータは、主にはそれを専門とする組織が担ってきました。イーサリアムのノードを高いパフォーマンスレベルで安定稼働させることが難しいため、個人ではその役割、負担を担いきれなかったことが原因です。

DVTが、Lidoのバリデータ運用の手段の一つとして導入されていることで、より誰でも手軽にLidoのノードオペレータになることができます。なぜなら、バリデータ運用の役割を分散させることで、一人一人のノードオペレータに求められるものを小さくすることができるからです。例えば、何かの問題でノードオペレータがオフラインになったとしても、他のノードオペレータが役割をカバーしてくれることで、ペナルティを受けるなどの問題を回避することができます。また、一人一人のノードオペレータの役割を小さくすることで、悪意のあるノードオペレータによってLidoが攻撃を受けるリスクも軽減することができます。

Lidoでは、SSV NetworkObol Collectiveと提携しており、どちらもすでにイーサリアムのメインネットで稼働を開始しています。現時点で、Lido全体のデポジットの4%をSSVとObolで使うことになっています(提案)。現在、LidoのTVLは約$24B(DeFi Llama, 9月16日)なので、単純計算で約$1B(約1400億円)ほどがDVTに預けられていくことになります。さらに、DVTの活用を促進するため、DVTに直接預け入れることができるVaultも発表されています。これには、SSVやObolからの追加のインセンティブも発生しています。

CSM

CSMはCommunity Staking Moduleの略であり、DVTと似て、コミュニティの個人が手軽にLidoのノードオペレータになれる状態を目指すための仕組みです。

Lidoとは無関係に一人でイーサリアムのバリデータを運用するのに比べて、以下のようなメリットがあります。

  • 2ETH程度の少ない金額で運用できる
  • バリデータの立ち上げや管理のUXが簡単
  • ETHをLidoから預かって運用するので、利回りが大きくなる(試算では一人で運用するのと比べて2倍ほどの運用効率)

現在、テストネットもすでに開始しており、誰でも参加することが可能です。専用のportalや詳細なガイドもすでに充実している他、Discordで質問することも可能なため、これまでバリデータ運用の経験がそれほどなくても取り組むことが可能です。また、メインネットに向けて、CSMのバリデータになるのに必要なデポジット金額を議論している段階です。テストネットで十分な結果が出て、デポジット金額が決まった段階でメインネットで実際に稼働することが予想されます。

Staking Router

Staking Routerとは、ユーザーから預かったETHを、異なるStaking Moduleに分配するものです。

Staking Moduleというのは、Lidoの中のバリデータ運用の仕組みであり、以下のようなものが現在あります。

  • 従来通りのLidoによって選定されたノードオペレータセット
  • DVT(分散型バリデータ技術)
  • CSM(コミュニティステーキングモジュール)

ここまで説明してきたように、これらはそれぞれ異なった仕組みで、Lidoがユーザーから預かったETHを利用してバリデータ運用をしています。仕組みが異なるため、ETHを預けた時の利回りや、管理手法、潜在的なリスクの性質などが異なります。Staking Routerとは、これらの違いに基づいて、ユーザーから預かったETHを適切に分配するための仕組みです。

Lidoとしてより高い分散性やパーミッションレスな状態を目指すために、Staking Routerは2023年2月のLido v2(発表)で導入されました。Staking Routerは、Lidoのバリデータ運用をよりパーミッションレスにする上で非常に重要な役割を持っています。そのために、Staking Routerの導入以降、様々な改善の取り組みが行われています。

一つは、預かったETHの分配の決め方に関するリサーチです。現在、Staking Routerによるユーザーから預かったETHの分配やモジュールの追加は、ガバナンスによって管理されています。将来的なよりパーミッションレスな状態を実現する上では、今のままの仕組みではガバナンスに求められることが肥大化しすぎる懸念があります。それを解決するための具体的な方向性として、例として以下のようなものが検討されています。

  • パフォーマンスや利回りなどの客観的なデータを利用して、自動的に比率を調整するアルゴリズムに基づくモデル
  • Curveなど一部のDeFiプロトコルにあるように、個々人が自身の収益を最大化するために投票を行うことで調整されるようなモデル

現在はまだ調査や議論の段階であり、今後、プロトコルのリスク管理や分散性の強化とノードオペレータやユーザーの収益の最大化の間でバランスをとりながら適切に選択される必要があります。

また、それとは別にStaking Router v2.0として、Staking Routerをバージョンアップすることも提案、承認されています。以前の仕組みでも、Staking Moduleの数が限られている場合には問題ありませんでした。ただ、Moduleの数が将来的に増えることを考えたときに、バリデータの鍵管理やオラクルとのやり取りなどで問題を抱えていたため、それを解決するための変更を行いました。

このように、LidoはStaking Routerの導入、改善を通じて、よりパーミッションレスで分散化した状態を目指しています。

終わりに

今回は最終回として、Lidoのバリデータ運用に関する詳細や分散化、パーミッションレス実現への取り組みについて解説しました。

Staking Routerの設計が仕組みとして非常に興味深いことに加えて、CSMなどは実際に誰でも取り組むことが可能です。

このような機会にぜひ、イーサリアムエコシステムの重要な基盤であるLidoについて知るだけでなく、貢献してみてください。

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