2025米国規制レポート vol.2

2025米国規制レポート vol.2

日付
March 18, 2025
タグ
Research
著者
Tomoyo Iwatsuka
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免責事項:この投稿は一般的な情報提供のみを目的としています。また、投資判断の是非を評価するために利用されるべきものではありません。また、会計、法律、税務に関するアドバイスや投資推奨に依拠すべきものではありません。本投稿は執筆者の現在の意見を反映したものであり、Tanéまたはその関連会社を代表して作成されたものではなく、必ずしもTané、その関連会社、またはTanéに関連する個人の意見を反映するものではありません。ここに反映された意見は、更新されることなく変更されることがあります。

はじめに

トランプ政権発足により規制緩和が推し進められており、暗号資産関連にも大きな影響が予想されています。第一回レポートでは、発足から2月上旬までの主な政権の動きと、暗号資産に関連する各論点の外観について触れてきました。

第二回となる本レポートでは、暗号資産の中でも近年存在感を強めている、ステーブルコインを巡る規制に焦点を当て、これまでの動きと今後の見通しについてまとめていきます。

ステーブルコインとは

まず最初にステーブルコインの定義についておさらいをしておきたいと思います。

ステーブルコインとは以下のような特徴をもった暗号資産であり、法定通貨と暗号資産を橋渡しする役割を果たしています。グローバルなブロックチェーンプロジェクトでも、自己の発行するトークンに代わって、USD連動(ペグ)のステーブルコインでプロジェクトの貢献者への報酬支払を行うといったことも一般的に行われています。

課題
現実社会での決済手段として普及拡大が課題 ・事業者への支払手段 ・個人間送金手段 ・クレジットカード決済との統合 等
発行方法
ブロックチェーンや暗号技術を用いたデジタル通貨
価格
法定通貨やコモディティ(金など)の価格と1:1連動するように設計。このため他の暗号資産トークンよりも価格が安定する傾向にある
利点
・送金コストが安く、送金スピードが早い(法定通貨の銀行間SWIFT送金との比較) ・他の暗号資産トークンとシームレスに交換等が行える(チェーンやプロトコルの互換性などの問題はある) ・NFT等のデジタルアセットとの交換手段としても普及 ・スマートコントラクトに支払いの執行を組み込むことが可能

現在発行されているステーブルコインは法定通貨にペグされたものが多く、特にUSドルのシェアは非常に高い(主要マーケット情報媒体からの推定で95%超)ものとなっています。

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Top Stablecoin Tokens by Market Capitalization (CoinMarketCap) 2025/3/12 上位10のステーブルコイン。全てUSDペグのコインで占められている。 https://coinmarketcap.com/view/stablecoin/

また、マーケット全体としては2020年から2024年の4年間で16倍以上の規模に成長していると言われており、市場全体の規模は2024年4月時点で1兆6800億ドルにも達しています。(CoinTelegraphJapan Zoltan Vardai ステーブルコインの取引量 過去4年間で16倍以上に増加Zoltan Vardai ステーブルコインの取引量 過去4年間で16倍以上に増加

もう少しステーブルコインの特徴や、コインごとにどういった違いが発生してくるかといった点を深堀りしたいと思います。

第一回レポートでも触れていますが、ステーブルコインは民間で発行される暗号資産であり、様々な種類が存在しています。同じドルペグのステーブルコインでもUSDT, USDC, DAIなどがあり、それぞれ異なる発行会社によって運用されています。また、他のトークンと同様、「対応ネットワーク」という概念が有り、対応範囲もステーブルコインによって異なります。

USDT
USDC
DAI
概要
中央集権型の法定通貨担保ステーブルコイン ・1USDT = 1USDの交換レートを維持 ・Tether社が準備金を管理
中央集権型の法定通貨担保ステーブルコイン ・1USDC = 1USDの交換レートを維持 ・Circle社とCoinbase社が共同運営する準備金によって裏付け
分散型の暗号資産担保ステーブルコイン ・アルゴリズムと担保資産の過剰担保によって1DAI = 1USDを維持 ・スマートコントラクトによる自動的な価格安定化メカニズム(清算システム)
裏付け資産の構成
• 現金、短期米国債、企業債、その他資産の混合 • 透明性向上のため四半期ごとに準備金構成を公開するようになったが、詳細な内訳は限定的 • 過去に準備金の構成について懸念が表明されたことがある
・米ドル現金および短期米国債を主体とした準備金 ・定期的な準備金監査レポートを公開 ・透明性の高い準備金構成(約80%が短期米国債、残りが現金や同等物)
• 主にETH、他の暗号資産、USDCなどを担保として使用 • 常に150%以上の過剰担保率を維持 • 担保の構成はブロックチェーン上で完全に透明
対応チェーン
・イーサリアム、トロン、ソラナ、ポリゴン、バイナンススマートチェーン、他多数 ・最も広範なブロックチェーンネットワークをサポート
・イーサリアム、ソラナ、アバランチ、ポリゴン、アルゴランド、ステラ、トロン、他多数 ・マルチチェーン展開に積極的
・主にイーサリアム上で運用 ・アービトラム、オプティミズム、ポリゴンなどのL2ソリューションにも展開 ・クロスチェーン展開は比較的限定的

Tips: 対応チェーンによる影響

同じネットワーク内のステーブルコイン、他のトークンはある程度の互換性があるため比較的トークン同士のSwapが容易で、手段も豊富に存在します。

逆に異なるネットワーク同士でトークンを交換したい場合にはBridgeというネットワークをまたぐ処理が必要となり、この部分はセキュリティの脆弱性やハッキングのターゲットになりやすいというリスクがあります。

また、送金、Swap、Bridgeなどの操作は発生の都度手数料も発生するという側面があります。手持ちのトークンととあるトークンを交換したい場合に直接交換する手段がなく、中間的なトークンで迂回するなどが必要な場合、SwapやBridgeの回数が増え、それに応じてプロトコル手数料や都度為替差による損益が生じることとなるため利便性を大きく左右します。

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また、ステーブルコインを再度現実の法定通貨に交換する(これをオフランプと呼びます)場合には、一般には販売所を利用することになります。販売所で取り扱っていないステーブルコインはオフランプすることができないため、これも利便性に大きな影響を与えます。(日本では2022年以降ステーブルコインの流通が規制されてきましたが、2023年6月にステーブルコイン取扱いに関する法制度が整備され、2025年3月に第一号登録事業者としてSBI CVトレードが登録され、USDCの取り扱いを開始することとなりました。)また、カストディ事業者などが提供する、預かり資産の暗号資産をそのままデビットカード決済に使用できるようなサービスも年々増加しています。

ステーブルコインを巡るこれまでの動き(米国)

第一回レポートでもお伝えしていますが、トランプ政権発足後のステーブルコインに関連する動きは大まかに以下のようなものです。

  • 超党派の暗号資産委員会と立法イニシアチブの発表(2025年2月4日)においてステーブルコイン法案の優先検討を明言
  • Chairman Hillらによるステーブルコイン法案(GENIUS法案)のドラフト提案(2025年2月6日)
  • GENIUS法案の改訂(2025年3月13日)

ステーブルコイン法(GENIUS法)案の概要

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本レポートの解説は2025年2月上旬に公開されたドラフトをもとにしています。法案は順次修正される可能性があります。

次に、立法に向けて議論が進められている具体的な法案について紹介していきます。

「Guiding and Establishing National Innovation for U.S. Stablecoins Act (GENIUS Act)」として提案されているこの法案は、政権発足以前よりディスカッションされていた内容をベースに大きく以下の要素について規律することを目的としています。

  • ステーブルコインの発行を連邦法によって規制すること
    • ただし小規模事業者については州法規制を選択できるオプションを提供
  • ステーブルコインは証券ではないことを明確化(証券法適用対象外)
  • 銀行法と類似する以下のような規制を課し、許可されたステーブルコイン以外の国内発行を禁止
    • 発行事業者の登録制
    • 発行に伴い利用者から受け取る金銭に対し、1:1以上の準備金の保有(手段についても指定あり。米ドル、短期国庫債券、中央銀行の預金など)
    • 償還ポリシーの公開義務
    • 未払ステーブルコインの償還フロー確立義務
    • 総発行数量、埋蔵量等の月次開示の義務
    • 月次での公認会計士による監査義務
    • 当局が指定する資本要件、流動性要件、リスクマネジメント要件に従う義務
    • 兼業規制(同一エンティティで営むことができる業務を限定列挙方式で規制)
    • マネーロンダリング対策等の義務
    • 債権者の非常に強い先取特権(あらゆる債権に優先)

また、発行主体としては以下のような事業者が念頭に置かれています

  • 保険付き預金取扱機関(銀行や信用組合)の子会社
  • 連邦法に伏するその他の事業者
  • 州法に伏するその他の事業者(小規模事業者)

兼業規制が存在するため、銀行等の既存の金融事業者は、ステーブルコイン事業専業の子会社を新たに設置して事業を行うことが想定されています。

連邦法上のステーブルコイン事業者となる場合はFRBが監督当局となり、州法上の事業者となる場合は州当局の管轄となります。現案では、100億円以下の小規模事業者については州法を選択することを可能とする構成となっています。(なお、対応する州法については具体的なものはまだ存在していないようです)

分散化されたブロックチェーントークンと異なり、ステーブルコインは法定通貨に準ずる決済手段として取引の安全性実現のため、銀行法と類似した規制によって規制される想定がされていますが、同法案では銀行のレバレッジ規制などを含んだいわゆるコリンズ修正条項(2010年金融安定法第171条)の適用が明確に否定されており、その点が銀行規制との大きな差となりそうです。コリンズ修正条項は金融機関の自己資本規制をより厳しくし、消費者保護を行うことを目的とした法律であり、今回ステーブルコイン発行者にそこまでは求めないことが明確化されています。

他方で、消費者保護の対策としては先取特権の設定があり、特に破産時の債権者の先取特権としてステーブルコイン債権者(保有者)の弁済優先順位はあらゆるものに優越することが明瞭に条文化されいる点などは特徴的です。

ステーブルコインの定義

そして肝心のステーブルコインの定義ですが、現法案では以下のような定義が予定されています。

  • 暗号化された分散台帳により記録される、デジタル上の価値(この法案の中ではこれをデジタルアセットと定義)であること
  • 支払いや決済の目的で設計されていること
  • 一定の払い戻し条件が付与されている、あるいは一定額の金銭的価値と比較して安定した価値を維持する設計がなされているものであること
  • 国の通貨や投資会社が発行する投資証券ではないこと

ステーブルコインでは第一回で紹介したブロックチェーントークンが証券法等の対象外となるための「十分な分散化」までは要求されず、あくまで技術的には暗号技術と分散台帳を用いて管理されていることが要件となっている点がブロックチェーントークンとの違いです。

実際、既存マーケットの主要プレイヤーであるUSDTやUSDCは1社あるいは限定された企業グループにより管理運営されています。

他方で、DAIのような分散型コミュニティによって運営されているステーブルコインのプロジェクトの扱いについてはどのようになるのか、今後注目していきたい論点となります。

ステーブルコイン取引事業者との関係

ここまで発行事業者について紹介してきましたが、取引事業者に対する規制についても予定されている内容を紹介していきます。

GENIUS法では発行事業者と異なり、取引事業者には一定の義務等が課されるものの、登録制度等は予定されていないようです。また、第一回レポートで紹介した通り証券法等でもステーブルコイン取扱事業者の適用除外(ディーラー登録等を不要にする)が想定されており、規制範囲は限定的な方向で考えられています。

取引事業者への規制は主にGENIUS法案内の消費者保護のパートで規定されており、主な規制内容は以下のとおりです。(なお、もっぱらセルフカストディのみを提供するようなサービスはさらに以下の規制も対象外となります)

  • 既存の金融消費者保護法(ドッド・フランク・ウォールストリート改革および消費者保護法)の規制対象となる
  • 連邦当局あるいは州当局の監督対象となる
  • マネーロンダリング防止法の対象となる
  • 財産や秘密鍵を預かる場合の分別管理義務、安全管理措置義務
  • 当局への報告義務

マネーロンダリング対策を中心に体制整備などは求められるものの、特に中小事業者に厳しい資本要件などが求められないことは現実のビジネスを行う者にとっては非常に大きいメリットかと思います。

取引事業者においても、これまで法律上の取り扱いが不明瞭であったことは産業発展の妨げになっているとの批判が生じていました。今回のGENIUS法案成立により、証券法の適用は否定され、ブロックチェーン関連で先んじてステーブルコイン事業者がビジネスを安全に実施する土台が整うことが期待されます。

ステーブルコインを巡るこれまでの動き(日本)

ステーブルコインを巡る法的な整備という意味で、日本の現状についても軽く触れておきたいと思います。実はステーブルコインについては日本の方が法整備のスピードとしては進んでおり、2022年6月に資金決済法の中で以下のような定義と棲み分けがなされています。(施行は2023年6月)

  • 発行については、資金移動業、銀行、信託会社に限定(各法で規制)
  • 取り扱いについては、資金決済法に電子決済手段等取扱事業者を新設(資金決済法)

発行事業者への規制は日米ともに厳格規制という点では類似しています。他方で、取扱事業者についても厳しいのが日本の特徴です。

取引事業者に課される主な特徴は以下の通りとなります。

  • 登録制
  • 国内の営業所設置義務
  • 資本規制(ただし暗号資産交換業のような信託義務はなし)
  • 各種開示、表示、事前説明等の義務
  • 認定協会への加入や体制整備義務
  • 預かり資産の分別管理義務
  • 発行事業者との賠償責任契約の締結義務

ステーブルコインの主要発行事業者が海外である現在の市場環境をふまえると、海外事業者においては体制整備面等で参入ハードルが高く、国内事業者においてはもちろん体制面や資本面のハードルはありますが、加えて発行事業者との契約交渉等がハードルとなりそうな印象があります。(この点についてはぜひ実際の事業者のご意見を伺いたいところです。文末のコンタクトフォームからぜひご連絡ください)

また、この規制は預かり資産を持たないWallet接続等で行う交換事業者やセルフカストディ型のWallet事業者も対象となっており、規制が重すぎるという問題点が近年指摘されています。この点については2025年内に「仲介業」を新設し、顧客資産の保全責任が一定低いと思われる業態については一部義務を軽減することが検討されています。

改正から2年半、施行から1年半経過していますが、2025年3月現在、ステーブルコインに関連する事業者は

  • 発行事業者:JPYC社(ただし前払式支払手段を用いたスキームのため用途は限定的)
  • 取引事業者:SBI VCトレード社(2025年2月に登録、3月よりβ版サービスを開始)

のわずか2社にとどまっています。

ステーブルコインを巡る規制 日米比較

最後に今回紹介した日米でのステーブルコインをめぐる規制状況についてまとめています。

日本
米国
ステーブルコインの発行
スキームにより下記のそれぞれの既存規制でカバー ・銀行法 ・信託法 ・資金決済法 資金移動業
連邦法のステーブルコイン(GENIUS法)法を立法し、FRBが管轄する予定 ※類似の州法が規定された場合、小規模事業者は州法も選択できるようになる予定
ステーブルコインの取引
・資金決済法 電子決済手段等取扱事業者として規制の対象 ・金商法の有価証券に該当するようなスキームの商品(今後出てきた場合)は、金商法にも伏することになる(証券扱い)
・permitted payment stablecoinは証券法規制から除外、証券取引法規制からも除外、デジタルコモディティが対象となる商品取引法からも原則除外(登録対象外) ・金融事業者に課される消費者保護規制やAML対策などの規制の対象にはなるが登録制度などはなし ・既存の登録事業者(ディーラーやカストディ)が許可されたステーブルコインを扱う場合には、管轄当局の規制に服することにはなる

米国は発行事業者は比較的厳格規制、他方で取引事業者に対しての規制は限定的とした規制緩和の方向なのに対し、日本側はいずれの事業者へも消費者保護を目的とした厳し目の規制となっており、両国の立法方針の違いがよく現れています。

今後の見通しについて

米国のステーブルコイン法(GENIUS法)については2025年2月に法案が公開されたばかりの段階であり、これから上院下院での審議の後、成立を目指しています。トランプ政権発足直後の報道や発言からも、本法の成立優先度は高く、定期的な情報アップデートが見込まれています。引き続き本レポートシリーズでも動向を追っていく予定です。

日本についても2025年は資金決済法を中心に改正の動きがあり、同様に注視していきたいところです。

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参考資料

www.hagerty.senate.gov GENIUS Bill

e-Gov 法令検索e-Gov 法令検索 資金決済法

Wikipedia Dodd–Frank Wall Street Reform and Consumer Protection ActWikipedia Dodd–Frank Wall Street Reform and Consumer Protection Act

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